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Chap.4-7 The Abduction -誘拐- [Chapter4 剣の記憶]

 嵐が去った砂漠に出て、再び二人が再開した狩りは、砂を噛むように味気なかった。

 ウルフを次々に倒す小気味よさは変わらなかったが、ヴァンは時にボンヤリして他のウルフにリンクされたり、ケアルをかけるのを忘れたりした。そんな時も、バッシュは何も言わずにケアルをくれた。
 軽く謝って笑顔を返し、また次の獲物へ狙いを定める。変わったつもりはないのに、ヴァンにはなんだが自分がぎこちなかった。
 ともすれば、気持ちは19年前の見知らぬ兄弟と、見知らぬ戦火に飛んだ。
 そしてその戦火は2年前のダルマスカを襲った戦火となり、死んでいく兄の白い顔に変わった。
 白い亡骸は見知らぬ女性のようでもあり、空っぽの白い部屋に一人残されたのは、自分ではなく見知らぬ少年の背に変わっていた。その手に握られた剣がこちらを向いて、見知らぬ少年は黒い甲冑を纏い、剣を兄さんに     .
「畜生!」
 ヴァンは目の前をチラつく忌々しい幻を切り払うように、ウルフの群に向かって短剣を振った。
(俺には関係ないんだ。この人の昔話なんて・・・。)
 程なく見つけたテクスタは、赤や黄色の極彩色の毛並みを持った一際大きなウルフだった。だが、群れるウルフ達を切り払いながら追い詰めると、バッシュの一太刀であっという間にその巨体を砂の上に横たえた。
 これでガスリもほっとすることだろう。ヴァンはガスリの不運面が喜ぶ顔と、待っている報酬を思い浮かべたが、大して気持ちは弾まなかった。
 傍らのバッシュを意識するたび、色々なものが頭の中をグルグルと駆けめぐった。

 降伏を拒んで祖国と家族を捨てた男なら、また降伏を拒んで新たな主君を手にかけただろうか。
 でも、それほど帝国を憎んでいた男なら、帝国の犬に成り下がってるはずもないじゃないか。
 でも、同じく帝国を憎んでいたはずの男が、今は帝国のジャッジマスターだという。
 血を分けた弟も母親も帝国の人間だ。彼はダルマスカ人じゃない・・・。

 一体何が真実なのだろう。それとも、全部真実なのだろうか。
 全部真実だと思いたかったのだ。ついさっきまでは。

 でも、真実が綺麗な事ばかりとは、限らない     .

     どうせ俺には関係ないんだ。)
 ヴァンは何度もそう自分に言い聞かせた。答えの出ない問いを繰り返す自分が鬱陶しかった。答えのでない問いを繰り返すのは、苦しかった。
「さ、討伐も済んだし、さっさと帰ってバルフレア達を探そうぜ。」
 ヴァンはケロリとした笑顔をバッシュに向けた。
 寄り道したのは自分の方なのだが、それを皮肉に思う気持ちさえ鬱陶しかった。
 さっさとバルフレアとフランを探して繋ぎを付けよう。それでオシマイだ。
 ヴァンはバッシュの返事を聞きもしないうちに、ラバナスタの西門へ向かって駆けだした。



「ヴァン、どうしたクポ~?ご機嫌斜めクポ。」
 のんびりした声にヴァンが顔を向けると、西門のモグシー停留所の傍らで、黄色いつば広の帽子に黄色いボンボンのモーグリが、小首を傾げてこちらを見上げていた。
「・・・ああ、ソルベか。」
 西門のモグシー屋・ソルベのおっとりした笑顔を見ると、ヴァンは何だかほっと力が抜けていく感じがした。
「元気がない時は甘いお菓子を食べるといいクポ!」
 長い大きな耳を揺らして無邪気にピョコンと跳ねるソルベも、南門のホルン、東門のハーディ、チョコボ屋のガーディとは兄弟だ。甘い物が大好きな、兄弟一のノンビリ屋で、ガーディに言わせると「ちょっとオッチョコチョイ」らしい。
 そういえば、ソルベ達は6人兄弟だって聞いたけど、あとの二人には会ったことがない。どこで何やってるんだったっけ?
「なあソルベ、ヒュムの男とヴィエラの二人組の空賊を見かけなかったか?」
 ヴァンの問いに、ソルベはクリクリした目を大きくして聞き返した。
「二人組?」
「うん。ここなら飛空艇乗り場の入り口も見えるしさ。」
「クポ~。飛空艇乗り場に出入りする人は皆ここから見てたけど、そんな二人組は見てないクポ。」
「パンネロも通らなかったか?」
「パンネロ?今日は見てないクポ。あ、この前パンネロがくれたマシュマロ、とっても美味しかったクポ~。お礼を言いたいクポ!」
 自分もマシュマロみたいにポンポン飛び跳ねるソルベに笑顔を返して、ヴァンは手を振った。
「会ったら伝えとくよ。じゃあな。」

「バイバイクポ~!」
 西門をくぐっていくヴァンの背中に向かって小さな手を振りながら、ソルベは呟いた。
「ヒュムとヴィエラとモーグリの三人組なら知ってるクポ。・・・でも、モーグリがいないのならきっと違うクポ。そんなのモグリクポ~。」





「ったく、あの二人、どこにいるのかな。」
 ヴァンは外門前広場の噴水の前で、思い思いにたむろし、行き交う人々の顔を見回した。
 バザーにも飛空艇乗り場にも行ってないなら、いったいどこを探せばいいのだろう。相手も自分も一応「脱獄囚」としては、大っぴらに探して目立つわけにもいかないのだ。
 (ツレもツレだしな・・・。)
 と、ヴァンが傍らのバッシュへ顔を向けようとした時、
「見たか?聞いたか?さわったか?     いや、さわっちゃあマズイ!」
 突然、ヒュムの若い男がヴァンの目の前に興奮した顔をぬっと突き出した。
「な、何のことだよ!?」
 突然胸ぐらを捕まれたヴァンが思わず腰を引くのに、
「何のことかって?ヴィエラがいたんだよ!」
 男は妙に目を輝かせながら、ヴァンの顔に唾がかかるのもお構いなしに捲し立てた。
「スタイル抜群で、モロ俺好み!ツレの男がいなきゃ、追いかけてるところだよ!」
「ツレの男ねぇ・・・。」
 ヴァンは呟きながら、横目で男の手を見た。広げた両の手のひらが男の願望に忠実に丸いラインを描いて怪しくスリスリ揺れている。
 そういえば、この男、仕事もなけりゃ彼女もなくて、日がな一日ヴィエラとの出会いを夢見て噴水の側でボーッとしてたっけ。
 そりゃ、”彼女”のあのボディラインを目の前に見せびらかされたら、ナルビナの囚人じゃなくても目の色を変える男は幾らでもいるよな・・・。
 ヴァンが呆れた溜息をつこうとした時、
「あ、ヴァン兄ぃ!久しぶり~。」
 ”仕事仲間”の子供が駆け寄ってきた。
「あのさ、あのさ!さっきヴィエラのねえちゃんのおしりにさ、顔からむにゅっとぶつかったんだ~。」
(・・・顔からむにゅっと・・・)
「でも、そのねえちゃん、怒ったりしなくてさ~。そのまま砂海亭に入っていったよ。一緒にいたキザな男が『子供でよかったな。』だって。」
「ハハハ・・・そうだな。」
 ヴァンはその子と一緒になって笑うしかなかった。
(大人だったら半殺しだぞ・・・。)
「それにしても、あの二人     
 ヴァンは広場の雑踏の中で、苦り切った顔で立ち尽くした。
 その傍らを噂好きの女達が賑やかにお喋りしながら通り過ぎる。
「少し前に、この近くをヴィエラが通ったの。二人組だったんだけどね。連れの男がものすごくいい男だったのよ~。」
「ん?ヴィエラといい男・・・ってもしかして、最近売り出し中の空賊バルフレア?」
「あら、そうね!だとしたらすごい賞金がかかってるわね。」
「砂海亭あたりにいそうね。・・・見に行ってみようかしら!」
 ヴァンは思わず怒鳴った。

     何が『大人しくしてろ』だよ!自分達が一番目立ってるじゃないか!」



「どうやら、彼らには隠れようという気は毛頭無いようだな。」
 市街地東部への路地を歩きながら、バッシュは苦笑混じりに言った。
「ほんと、ふざけてるよな!これじゃまるでラバナスタ中が噂してるみたいだ。・・・帝国兵まで知ってるんだぜ。」
 ヴァンも口を尖らせて頷いた。
「名前も賞金首なのも皆知ってるし。・・・コソコソ探した俺が馬鹿みたいじゃないか。」
 ブツクサと愚痴りながらるヴァンに、今度は、
「あ、ヴァン兄ィ!」
 一際元気な声が飛んできた。見ると、道具屋の店先からカイツが両手を振っている。
「聞いたよ。無事に帰ってこられてよかったね。」
 カイツはいたずらっこい笑みを浮かべて、ヴァンに言った。「解放軍の連中、怖くなかった?」
「それ誰から聞いたんだよ?」
「え?情報源?ダラン爺に決まってるじゃん。」
 カイツはヴァンの後ろに立つバッシュの顔を見上げた。大きな目が僅かに緊張したように揺れたが、男の子らしく胸を張ると、一人前に得意そうな笑みを返した。
 最初はカイツに頼むつもりだっただけあって、ダラン爺もカイツには彼のことを話したらしい。
 でも、ダラン爺はどこまでバッシュのことを知ってるんだろう・・・。
「でも、ゆっくり話を聞いてるヒマないんだよねー。」
 カイツが残念そうに言った。
「ミゲロさんもパンネロ姉ちゃんもまだ来てなくてさ。ホント忙しくて大変なんだ。」
「パンネロの奴、まだ来てないのか?」
「ううん、まだ。」
 カイツはヴァンのマネをして鼻をこすりながら言った。
「ミゲロさんもいないんだ。ヴァン兄ィのこと話したらビックリしてたけど、また慌てて出て行ったよ。・・・なんだかあちこち走り回って、バルフレアって空賊のことを探してるみたい。」
「はぁ?」
 ヴァンは思わず口をあんぐり開けた。

「・・・なんでミゲロさんまでバルフレアの追っかけやってんだよ?」





「どうして手を出しちゃいかんのだ、ウェッジ!奴らは賞金までかかった無法者だぞ!俺達帝国兵が取り締まらなくてどうする?!」
「何言ってるんだビッグス。ああいう手合いはジャッジも手を焼くやばーい奴が多いんだ。こっちから手を出して返り討ちにあったら格好悪いじゃないか!」
「しかし!・・・」
「ここは一つ、穏便に、大過なく、波風立たせずに自分達の務めを全うするためにだなぁ・・・     見なかったことにするのだ!」

 グダグダ言いながら酒場から出てきた二人の帝国兵とすれ違うと、ヴァンとバッシュは入れ替わりに砂海亭の扉を開いた。
 薄暗い灯りの中、グラスの触れ合う音と談笑のざわめきが二人を包む。甘酸っぱいような酒と旨そうな料理の匂いに鼻をくすぐられながら、ヴァンが店の中を見回すと、

     いた。)

 この前まで帝国兵が我が物顔でふんぞり返っていた2階の特等席から、ヴィエラの長い耳がのぞいている。いやに機嫌の良さそうな顔で降りてくる女の店員とすれ違いながら二人が階段を昇ると、果たして、食事を終えたらしいバルフレアとフランが優雅にグラスを傾けていた。
「何だ、もうお前に用はないぜ。仲間に元気な顔でも見せに行ってやんな。」
 バルフレアはろくすっぽグラスから目も上げずに言った。グラスを持つ手の派手な指輪が、グラスの氷と一緒にキラキラ光った。見れば二人の前に並んでいるのは砂海亭で一番高い酒だった。脇に置いた銃も新しい物に変わっている。稼いだギルで買い換えたのだろう。
(ちぇっ、いい御身分だな。)
 口をへの字に曲げたヴァンに、フランが言った。
「あのお嬢さん、心配しているはずよ。そう・・・バルフレアが預けたハンカチでは、涙はともかく不安を拭うことはできないわ。」
「わ、わかってるよ!」
「わかったら早いところ行ってやりな。涙の海で溺れちまわないうちにな。」
「ちぇっ・・・」
 ヴァンはバルフレアの端正な横顔を見ながら舌打ちした。・・・ほんっとにキザな男だよな。
「俺だってあんた達に用はないけどさ。」
 ヴァンはふくれっ面でバッシュの方を振り返った。「用があるのはこっち     
 その時、バタバタと階段を駆け上がる足音が近づいたかと思うと、青と白のつむじ風みたいな物がいきなり目の前に飛び込んできた。
     あんたがバルフレアか?!」
「ミゲロさん?!」
 ヴァンは驚いて声をあげた。突然飛び込んできたミゲロは、小さな目を見開いてバルフレアを睨み付けた。白い鱗の太い腕を震わせて、大きな口を開けて喘ぐように肩で息をしている。ヴァンはこんなに慌てたミゲロを見たことがなかった。
「こ、これを見ろ!」
 ミゲロは握りしめて皺になった紙切れをバルフレアの鼻先に突き出した。驚いた様子もなく乱入してきたバンガ族の男を見返していたバルフレアは、ありありと迷惑そうな表情を浮かべていたが、渋々手を出してその紙切れに目を落とした。
「どうしてくれるんだ!?」
 怒鳴るミゲロの声も意に介さずに、ゆっくりと読み終えたバルフレアは、ミゲロを見上げると落ち着き払った声で言った。
「・・・あいつが勝手に誤解しただけだ。」
 テーブルの上に放り出された紙切れをフランも手に取った。だが彼女の謎めいた静かな表情も変わらない。二人の様子に益々苛立ってミゲロは怒鳴った。
「誤解だろうが6階だろうが、パンネロがさらわれたのは、あんたの責任じゃないか!」
 ヴァンは思わず身を乗り出した。
「おい、パンネロが何だよ?」
「おお、ヴァン。無事だったか。」
 今になってヴァンの存在に気付いたミゲロは、つんのめるような早口で捲し立てた。
「パンネロがさらわれてな。ゴロツキどもが手紙をよこしたんだ。バルフレアを名指しでな。ビュエルバの魔石鉱に来いとな。」
「ゴロツキ?」
「バッガモナンよ。ナルビナにいた。」
 フランが言った。
「どうしてあいつらがパンネロを・・・」
 ヴァンは首をひねったが、
「あ、ハンカチ!」
 そう言えば、帝国兵に連行される自分達に駆け寄ろうとしたパンネロを止めようとして、バルフレアが自分のハンカチをパンネロに・・・
(あいつら、あの時ダウンタウンにいたのか・・・)
 ヴァンは合点がいくと同時に、なんだか悔しいような変な気分がしたが、それはミゲロの怒声に吹き飛ばされた。
「あの子に何かあったら、親御さんの墓前になんて報告すればいいんだ!」
 興奮したミゲロの声は、上ずって裏返りかけている。
「ほら、さっさと助けに行け!空賊ってのはそういうもんだろう!」
「男の手紙に呼ばれてか?」
 バルフレアは相変わらずうんざりとした調子で答えた。「だいたいビュエルバには帝国の艦隊が集結中なんだぞ。」
     じゃあ、俺が行くよ。」
 ヴァンはバルフレアに向かって言った。
「飛空艇、持ってるんだろ?送ってくれたら俺がパンネロを助ける。」
「付き合うぞ。」
 それまで目立たぬように下がってミゲロ達のやり取りを聞いていたバッシュが、二人の空賊の前に進み出た。
「私にもビュエルバには用がある。」
 バルフレアの手が、静かにグラスを置いた。
「・・・侯爵と直談判か?」
 見上げる若い空賊の鋭い目を、バッシュは無言で見返した。
 一瞬の沈黙が二人の間に降りた。
 グラスの中で溶けた氷が、カランと澄んだ音をたてた。
「頼む!」
 二人の男に割って入って、ヴァンがバルフレアの鼻先に拳を突き出した。
「送ってくれたら、あんたにやるよ。」
 ヴァンの手の中で、女神の魔石が赫く輝いていた。
「頼むよ!」
 フランがテーブルに肘をついて、ふぅっと溜息をついた。
「手間のかかる女神ね。」
「・・・ああ。」
 バルフレアは心底うんざりしたように頷くと、ようやく重い腰を上げた。
     さっさと支度してこい。すぐに発つぞ。」
 立ち上がった二人は、今度は後も振り返らずにヴァン達を置いて歩き出した。
「急げよ!お嬢ちゃんを助け出して、面倒はさっさと終わりにしたいんでな!」
「わかった!」
 ヴァンとバッシュも二人の後を追って階段を駆け下りた。

「頼んだぞ!」
 残ったミゲロの心配げな声が、ヴァンの背中を追った。

店員「あの~お勘定は?」
ミゲロ「へ?」
店員「お食事とお酒で、お二人様1500ギルになります☆」
ミゲロ「はぁっ?!」


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