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Chap.4-5 To Where? -尋ね人- [Chapter4 剣の記憶]

「・・・とは言ったけどさ。」
 ヴァンは東門前の雑踏を見回しながら、しょっぱい顔で鼻をこすった。
(俺、バルフレア達がどこにいるかなんて、全然知らないんだよな・・・) バッシュにはああ言ったものの、二人の居場所を知らない点ではヴァンもバッシュと大して代わりはしないのだ。それで繋ぎを引き受けるとは何とも調子のいい話なのだが、頼まれたということは、
(俺もいっぱしの空賊に見えたのかな。)
 そう思ってまんざらでもない気分になるのが、輪をかけて調子のいいヴァンなのだった。

 さて、『しばらくラバナスタにいる』とは言ってたけど、二人ともどこにいるのかな・・・。


「おい、ハーディ、何サボってんだよ。」
「クポ!?」
 ヴァンが声をかけると、モグシー停留所の近くを退屈そうにブラブラ歩き回っていた青い帽子のモーグリが飛び上がった。
「モグはサボってないクポ~!」
 そのモーグリは青いボンボンを揺らして停留所に慌てて走っていくと、ピシッと気を付けをした。サラサラの前髪とモーグリの割に切れ長の涼しい目をしたハーディは、南門担当のホルンの弟だ。
「どこ行くクポ~?」
「ハーディ、ちょっと聞くけどさ・・・」
 ヴァンは周りを見回すと、こっそり声を落としてハーディに尋ねた。
「ヒュムの男とヴィエラの二人組を見かけなかったか?昨日の夕方、ここを通ってラバナスタに来たんだけどさ。」
「クポ?昨日までモグシーはお休みだったから見てないクポ。今日も全然見かけてないクポ。」
 小首を傾げるハーディに、ヴァンはニヤリと笑って言った。
「本当か~?さっきみたいにサボってて見てないんじゃないか?」
「さ、サボってない!サボってないクポ~!」
 ハーディは青いボンボンと一緒にピョンピョン飛び跳ねた。
「尋ね人ならコソコソしてないで、皆に聞いてみればいいクポ。おー・・・」「わっ!ダメだって!」
 ヴァンは慌ててハーディのちっちゃな口を押さえた。「グモモッ・・・」
「大っぴらに探すのはマズいんだよ!」
 なにしろ探す相手は高額の賞金首なうえに脱獄囚だ。目立つような所にいるとも思えないが、目立つような探し方をするわけにもいかない。
「見てないならいいよ。こっちで探すからさ。」
 ヴァンは目を白黒させているハーディを解放すると、今度は大っぴらに聞いてみた。
「ところで、今日パンネロは見なかったか?」
「パンネロ?見てないクポ。」
 ハーディはやはり首を振った。じゃあ、東ダルマスカ砂漠のダントロ達のキャンプに出かけたわけでもなさそうだ。
「ちぇっ・・・どこに行ったのかな。心配かけやがって。」
 ヴァンがそう呟いた時だった。
     ちょっとヴァン!何言ってるクポ!」
 突然、頭の上から女の子の声が降って来て、ヴァンは眼を丸くした。
「ガーディ!」
 振り返ると、女の子モーグリのチョコボ屋ガーディが、プンプン怒りながら目の前にパタパタ浮かんでいた。モグシー停留所の丁度向かい側がレンタルチョコボ屋なのた。
「心配かけてるのは誰だと思ってるクポ!」
 ガーディは赤いほっぺを益々赤くしてプリプリ怒っている。
「ヴァンが心配かけるから、パンネロは一人でナルビナまで行ったりしたクポ!少しはパンネロの気持ちが分かったクポ?!」
「そう怒るなよ・・・」
「ガーディは怒ると兄弟で一番怖いクポ・・・」
 まるで一緒に怒られているような顔をしてハーディが呟いた。実はガーディもハーディ達とは兄弟なのだ。なんでも全部で6人兄弟らしい。中でも一番小さなガーディが、一番元気だ。
「乙女心にニブチンな奴は、チョコボに蹴られてボッコボコ、クポ!」
 ガーディはブカブカのフリルの袖を振り回した。
「わ、分かったから!・・・パンネロ見かけたら俺が探してたって言っといてくれよ。なっ?!」
 ガーディの剣幕に、ヴァンは尻尾を巻いて逃げ出した。この分じゃ、当面お説教は終わりそうもない。
「ハーディ!ムスル・バザーまで頼む!」
「クポッ!     テレポッ!・・・ックポ。」

 パンネロもあんなに怒ってなきゃいいけど・・・・







「ヒュムとヴィエラ?・・・さあ、見ないねぇ。」
 毛皮骨肉店の親父は、つまらなそうな目でヴァンの持ち込んだおたからを品定めしながら呟いた。
 二人が潜んでいるとしたら帝国の監視が緩いムスル・バザーだろうと思って来てみたものの、どうも当ては外れたようだった。ヴィエラを見かけたと言う者がいたので行ってみたら、カトリーヌという故郷を出たばかりの世慣れてない一人旅のヴィエラだったし、盗品も平気で買い取る毛皮骨肉店の親父も返事はつれなかった。
「虹色のタマゴを持ち込んでないかと思ったんだけど・・・覚えない?」
 というヴァンの問いに、
「そんなおたからが持ち込まれたら覚えてるに決まってるだろ!来てねぇよ!」
 と二重顎で怒鳴り返すと、さもつまらなそうな顔で目の前のヴァンの「おたから」を品定めした。
「・・・雷の石が1個35ギル、コッカトリスの小さな羽根が1つ49ギル、狼の毛皮が1枚41ギルってところだな。・・・1ギルだってまからねえぞ。」
 店主はシブイ顔で禿げた頭をなで上げた。
「ったく、砂漠の向うまで行った割にはショボいお宝を持ち込んでくれるじゃないか。」
「そんな事言うなよ。こんなに色々あるじゃないか。」
「数だけあってもな。」
 乾しプラムみたいに渋った顔の店主の目の前に皮や石を並べ立てて、ヴァンはプイと口を尖らせた。この親父のことだ、ショボいなんて言って、本当は買いたたこうって魂胆に決まってる。
 だが、店主はでっぷり太った二重顎を摘みながらズルそうな目で言った。
「ガラムサイズ水路に潜ったんだろ?だったら緑色の液体とカラメルは手に入らなかったのか?」
「あの汚いベタベタした奴?それならバルフレアが・・・」
 プリン戦の時、強引に盗み役を交代して・・・
「あれなら1つ210ギルは出したがね。」「えっ?」
「カラメルなら280は出してもいい。」
「マジで?!」
 目を丸くしたヴァンを半分呆れ顔で見ながら、店主は言った。
「地下道を抜けたなら骨くずは拾わなかったのか?・・・”出る”んだろ?アソコは。」
「骨くず?・・・ああ、それは確かフランが、腐った肉と一緒に・・・」
 いらないなら、ついでに引き取ってもいい、って・・・
     あれ、ゴミじゃなかったのか?!」
 あんぐりと口を開けたヴァンを眺めながら、故買屋の親父は呆れた溜息をふぅ~っとついた。

「・・・お前もまだまだガキだなぁ。」


(畜生~!!)
 ヴァンはさして重くもならなかった懐にムカつきながら、バザーの人混みの中で石畳を蹴飛ばした。
 あの二人、ちゃっかり値の張るものばかりピンハネしていったんだ。
 ・・・そりゃ二人とも、ガラクタは要らないって言ってたけどさ。
 虹色のタマゴはともかく、何だか分からない骨くずや変な液体なんて、皮や骨より     .
(もっとガラクタだと思ったんだよなぁ・・・)
 溜息と一緒に、腹がグゥーッと鳴った。
(虹色のタマゴ、よこせって言えばよかったなぁ。)
 盗んだ奴が取るって決めたのはヴァンも同意の上だったのだが、あのケチな毛皮骨肉店の店主が虹色のタマゴなら1個550ギル出すと言うのを聞けば、ネクベトに散々突かれた尻がまた痛くなってくる。なんでも『鉄の胃袋』とかいう帝国の食通クラブの連中が先を争って手に入れたがっているらしい。どうりでバルフレアが盗みに拘ったはずだ。
(・・・何にも教えないなんて、汚ねぇよなぁ。)
 ヴァンはバルフレアのスカした背中を思い出して、口をへの字にひん曲げた。モーグリ並みに金にうるさいのは自分の方じゃないか。
      畜生、絶対見つけてやるからな。

 とはいえ、せっかく”凱旋”した身としては、みんなに何かおごってやらなきゃ格好がつかないし、バッシュにだってああ言った以上は何か食い物を手に入れないとマズイ。
(やっぱり先にモブハントに行った方がいいかな。)
 ヴァンはクランレポートに挟み込んだモブの手配書に目を落とした。モブハントの報酬を手に入れればもっと懐は暖まるだろうが、いざ一人で砂漠に出るとなると、もう少し魔法やアイテムまで揃えないと心許なかった。
『経費は全部そっち持ちクポ!』
 モンブランが爽やかに言い切った忌々しい言葉が耳に蘇る。この調子じゃ、なけなしのギルは飛空艇より軽く空に飛んで行ってしまいそうだ。
(これじゃ、本当に死んでもモブを討伐しないと元が取れないや。)
 ヴァンは深ーい溜息をついた。


「なあ、ガスリって人の店どこ?」
「ああ、うちの人ならそこにいるわよ。・・・酒代を切らして、さっき砂海亭から帰ってきたから。」
 ろくに品物もない寂れた雑貨屋で退屈そうに店番をしていた女が指さす方を見ると、店の奥から萎れた瓜みたいな、見るからに不景気そうな顔をした男が顔を出した。
「おお、テクスタ退治の張り紙を見てくれたのか?わたしがガスリだよ。」
 プンと安い酒の臭いがする。
「伸び悩む現状を打開しようと、新しい商品を買いつけたんだ。全財産を投資する勢いさ。ところが最近、西ダルマスカ砂漠に現れた怪物が砂漠を通る隊商を次々に襲ってるっていうじゃないか。わたしの買った品も、西ダルマスカ砂漠経由で届くんだ。もし魔物が商品をダメにでもしたら、わたしの店は・・・。」
 ガスリは、薄い胸板を膨らませ、矢印みたいななで肩をいからせて一気にまくし立てた。博打みたいなことをした割には、この男、いかにも運のなさそうな顔をしている。
「大丈夫、俺が引き受けたからには安心だよ。」
 ヴァンは余裕綽々に胸を張ってみせた。
「おお、ありがとう!」
 ガスリがその幸の薄そうな潤んだ眼を輝かせた時だった。
 ヴァン達の背後で、褐色のシークと灰色のバンガが呑気な大声で話しているのが耳に入った。

「西ダルマスカ砂漠のどっかに、でかくて強いドラゴンが潜んでるって聞いたことがあるんだな。その辺にいるドラゴンとはワケがちがうらしい。」
「それ本当かよ?」
「嘘じゃないんだな。うなり声か、砂嵐の音かはわかんないけど、それっぽいのを聞いたことがあるんだな。どこで聞いたかは・・・忘れたんだな。」
「こりゃ、西の砂漠には出るもんじゃねえな。」

(ドラゴン     ?!)
 ヴァンは思わず声にならない声をあげた。こっちは「その辺にいるドラゴン」だって見たことがないのに、それよりワケが違う強い奴ってどんな奴だよ。東ダルマスカ砂漠のワイルドザウルスとは比べものにならないってことだよな・・・。そんな奴が西ダルマスカ砂漠のどこかにいるって・・・。
「なあガスリさん、今の話・・・なかったことには・・・」
「・・・テクスタは西ダルマスカ砂漠のガルテア丘陵に出る。隊商から聞いた話だと、西門から砂漠を出て、左手の壁沿いに進んでいったところで襲われたそうだ。」
 おずおずと口を挟むヴァンのことなどお構いなしに、ガスリは捲し立てる。
「本当によろしく頼むよ。店がつぶれたら、わたしも妻も・・・。うう・・・。」
 店先なのも構わず、ガスリは半べそをかきだした。売られる子牛のような目で見つめられて、ヴァンも思わず後じさりする。
「あの・・・俺、人を探してる途中でさ。すぐにってわけには・・・」
「ああ、こうしている間にも私の荷物が襲われているかもしれない・・・」
「おさげの女の子とか・・・二人組の空賊とか・・・見た覚えは・・・」
「もし間に合わなかったら、もう夫婦で首をくくるしか・・・」
(うわ~・・・)
 ヴァンがもう一度声にならない悲鳴をあげた時だった。

     引き受けてやったらどうだ?」

「あ・・・」
 その声にヴァンが振り向くと、いつの間にかヴァンの後ろに立っていたのは、バッシュだった。







「・・・二人の居場所知らないの、バレちゃったな。」
 西門へと向かう道すがら、バッシュと並んで歩きながら、ヴァンは決まり悪く頭をかいた。
 飛空艇乗り場のある西門付近は実に様々な人々が行き交う。優雅に降り立った帝国からの旅行者の隣には、西ダルマスカ砂漠の砂嵐を縫って陸路を来た隊商の砂にまみれた姿がある。飛空艇整備士のモーグリ達が忙しげに駆け回る隣では、やはり帝国兵の厳めしい甲冑が点々と冷たい影を落としている。
「あの二人とはナルビナ送りになる前に偶然一緒になっただけで、本当は何にも知らないんだ。」
 だがバッシュはそれを責める風でもなく言った。
「他にも探している人があったようだな。・・・いいのか?」
「あ、パンネロのことなら他にも探してもらってるから。たぶん、もう店に戻ってるよ。・・・それより、あんたこそモブハントに付き合ってもいいのかよ。」
「ああ、自分の食い扶持は自分で稼ごう。」
 バッシュはそう言って笑った。まあ、困ると言われても付き合わせる気のヴァンではあったのだが。バッシュが助っ人に入ってくれるなら渡りに船だ。噂のドラゴンも、目が二つより四つの方が早く見つけて逃げることだって出来るだろう。・・・まあ、見つけたくもないが。
「パンネロ、と言ったか?」
 バッシュが聞いた。
「うん、あの・・・友達。」
 ヴァンはそう答えた。
「孤児仲間、って奴?あの部屋にいた子供達の姉さん代わりやってるんだ。」
 バッシュはディグ達のことを思い出したのか、微笑をこぼした。
「子供達は君との約束を守ろうと一生懸命だ。あそこは『幽霊が出る部屋』だから誰も入っちゃダメなんだそうだ。」
「・・・当たってるじゃん、それ。」
 ヴァンは笑った。笑いながら、バッシュが部屋を出てきた理由が分かった気がした。遅かれ早かれ大人に見つかった時、子供達が騒ぎに巻き込まれるのを恐れたのだ。
 だが、そんなことは一言も言わずに、バッシュはヴァンに詫びた。
「すまんな、せっかく気を遣ってもらったのに、出てきてしまって。」
「いいよ。・・・あの狭い部屋に籠もってても自由になった気がしないだろ。」
 ヴァンの言葉に、バッシュは言った。
「・・・この街に自由はない。」
 その鋭い目は、銃痕の残る西門に懸けられた巨大な帝国旗を見上げていた。
「・・・うん。」
 ヴァンは、その男の厳しい横顔を見ながら頷いた。
 バッシュはこの2年間、一度もラバナスタの街を見ることがなかったのだ。黄金のダルマスカ旗の下出陣してから2年。戻ってきた王都には帝国旗の紅が塗りたくられ、帝国兵の黒い甲冑が我が物顔で行き交っている。
 そして、それに慣れてしまったかのような、ダルマスカの人々     .

 無言で歩く二人の脇を、小さな子供達が元気に駆け抜けた。その姿に振り返ったバッシュの足に、遅れて駆けてきた女の子ぶつかった。
「あ、こら!おじさんに謝らないか!」
 後を追ってきた父親らしい男性が、その女の子を抱き留めた。
「店の手伝いをするって約束したろ?」
「いや!あたしもみんなと遊ぶ!」
「約束を守れない子じゃ、死んだ母さんも悲しむだろ!」
「約束なんかどうでもいいもん!」
「あ、こらっ!」
 父親の声にも耳を貸さず、その子は他の子を追ってまた駆けだしていった。
「・・・すいませんねぇ。」
 父親はさほど怒った様子もなく、子供達がじゃれながら通りをゆくのを見ながら言った。
「聞き分けのない子で困ってますよ。昔は騎士団を見習いなさいって言えたんだが、ほら・・・バッシュが裏切ったでしょう?     .



 父親が一人で店に戻っていった後も、バッシュは無言で通りで遊ぶ子供達の姿を見つめていた。
 その背から目を逸らして、ヴァンも歓声を上げる子供達に目を遣った。
 日に焼けて汚れた顔をしたその子達に、さっきの父親のように声をかけるような大人はいない。
「・・・みんな戦争で親を亡くしたんだ。」
 ヴァンは言った。「うちの親はその前にいなかったけど。」
 振り返ったバッシュに、
     二人とも、流行り病でさ。」
 ヴァンがそう言うと、バッシュは目を伏せた。
「すまんな。・・・思い出させて。」
「別にいいよ。もう5年だしな。」
 ヴァンは一つ大きく息を吐いた。
「それからは、パンネロの家族が面倒見てくれてたんだ。でも     
 ヴァンは俯いた。
     戦争で、みんな死んだ。」
 一瞬の沈黙の後、バッシュは言った。
「すまなかった。」
「何度も謝るなって。」
 ヴァンは小さく笑って見せた。
「俺だってガキじゃないんだから。・・・もう、分かってる。」

 子供達が通りの向うへ駆けていく。無邪気な歓声が遠く小さくなっていく。
 ヴァンは言った。
「・・・兄さんのことは、あんたのせいじゃない。」
 そして西門に懸かる深紅の帝国旗を見上げた。
     悪いのは、帝国だ。」
 バッシュはただ無言で占領者の旗を見つめていた。
 その顔を見ながら、ヴァンは言った。
「あんたを信じた兄さんは、間違ってなかったんだ。」

 ヴァンは西の砂漠へと続く通りを歩き出した。
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