SSブログ

Chap.4-3 The Memory of the Sword -剣の記憶(1)- [Chapter4 剣の記憶]

「お、ちょうどいいところに来たな。パンネロちゃん見てないか?」
 カウンターに皮の盾を持って行くと、防具屋のバナミスが豚っ鼻を揺らしながら言った。
「いや、特に用事があるわけじゃないんだ。今日はご用聞きに来てないから、どうしたのかと思ってね。」
 またか。と、ヴァンは思った。ここに来るまで、何件の店で同じような事を言われただろう。
『あら~。道具屋さんのお手伝いはいいの?ミゲロさんもパンネロちゃんもお休みでしょ?カイツくんがひとりで店番してたもの~。』
『パンネロちゃん、今日はお休みなのかね?いつもならご用聞きに来るんだけどなぁ・・・・。』

 てっきり配達か御用聞きに回ってると思ってたのに、パンネロの奴、どこに行ったんだろう?
 ・・・売っちゃうぞ、これ。
「あんたのそれ、珍しい石だよな・・・・。」
 ヴァンが手にした女神の魔石を見て、バナミスがさも物欲しそうな顔になった。シーク族はみんな光り物が大好きな種族なのだが、バナミスときたらとびきりで、光り物ならどんなガラクタでもすぐに手に入れたがることで有名なのだ。
 だが、バナミスは大きな腹を揺らして目をつぶった。
「ぶるぶるダメだ。買えばかーちゃんに叱られる!」
 そんなバナミスは、奥さんの巨大な尻に敷かれっぱなしなことでも有名なのだった。
「心配しなくてもまだ売らないよ。」
 ヴァンは笑って魔石をポケットに戻した。ミゲロさんも店に戻ってないほど忙しいのなら、パンネロもギーザ草原の集落に急ぎの用事を言いつかったのかもしれない。
「そっちのエスカッションはいいのかい?買い取るよ。」
「ああ、これは借り物だから。」
 まだ心残りそうにヴァンのポケットを見ているバナミスにそう言って、ヴァンは防具屋を後にした。



「ふぅ。・・・次はアマルさんの武器屋だな。」
 ヴァンは呟いた。
 モブハントで稼いでやろうと勇んでセントリオに入ってはみたものの、リーダーのモンブランに散々縁起でもないことを聞かされて、ヴァンはすっかり背筋が寒くなってしまった。さっさとおたからを売り払って装備を調えないと、とても討伐に出る気になれない。
 うっかり殺られても、あの縫いぐるみみたいな顔で『残念だったクポ。』の一言で済まされるんじゃ、たまったもんじゃないのだ。モンブランの奴、アイスクリームみたいに甘くて可愛い顔してるくせに、言ってることは甘い所じゃない。
(はぐれトマトの報酬を貰った時には、退屈しなくて実入りのいい稼業だと思ったのになぁ。)
 そういえば、「モーグリからの贈り物には注意しろ」ってことわざが、あったような、なかったような・・・。

「正式な発表はないんだが、祝宴の夜に賊が王宮を襲ったらしい。このあたりでも大きな音が聞こえたよ。でも、すぐに静かになったから、単なる祝宴の余興だったのかもな。」
「余興じゃない、本当に賊が入ったのさ。」
 アマルの武器屋も多くの客で賑わっていた。王宮での騒ぎを知って「自分の身は自分で守らなければ」と思う市民も多いのだろう。
「賊が入ったのは本当だが、実際の被害はあまりないらしい。先を読んだ執政官の対応が良かったんだな。」
「でも市内の帝国兵も賊だって言ってるのに、どうして執政官府は正式に発表しないのかしら。」
「さあ。捕まえたんなら、別にどうでもいいんじゃないか。」
 耳に入る声を聞き流しながら、ヴァンが剣に付いた値札と睨めっこしていると、
「あら、あなた・・・監獄行きだってトマジが・・・。」
 ダウンタウンに住んでいるお喋り好きな女性が声をかけてきた。
     え?抜け出してきたの?あのナルビナ城塞から?!すごいじゃないの。見直したわよ。」
「しーっ!!」
 女の上げる素っ頓狂な声に、ヴァンは慌てた。
「ここには帝国兵もいるんだから、大声出さないでくれよ。・・・ダウンタウンじゃないんだから。」
「あら、ごめんなさい。・・・ミゲロさんやパンネロちゃんに顔見せてあげた?特にパンネロちゃん、すごく元気なかったわよ。」
 女は大して気にした様子もなく行ってしまった。
「ふう・・・。」
 ヴァンは冷や汗をかく思いで息をついた。すぐ近くのショーケースの前に、厳めしい甲冑をつけた帝国兵が立っているのだ。なんとも鬱陶しいことだが、市街地東部の店には帝国兵が始終出入りをしていて、客や商品をいちいち監視しているのだ。
(あいつら、いなくなればいいのに・・・)
 そう思って帝国兵を横目で見たヴァンの背に、本当に冷たい汗が流れた。
 その帝国兵がまともにヴァンの方を向いて、ゆっくりと歩いて来るではないか     .

「どうした?」
 予想に反して、その帝国兵は穏やかな声をかけてきた。
「い、いやあの・・・店の手伝いで砂漠に出るから・・・」
「護身用だな。・・・ふん、メイジマッシャーを持ってるじゃないか。なかなか優れものだぞ。」
 しどろもどろになりそうなヴァンの返事を疑うようでもなく、帝国兵はヴァンの持っている短剣を目にして言った。
(そうなんだけど・・・。)
 ヴァンは口籠もった。
 この短剣は借り物だから、自分のを買いたいんだ。とは、言えなかった。
 どこの誰から借りたかなどと、聞かれるはずもないのだろうが     .
「ラバナスタ近郊はそう強力な魔法を使う魔物はいないから、攻撃力を重視するならこちらのアサシンダガーの方がいいだろう。」
 そう言って、その兵士は赤黒い色をした片刃の短剣を手に取った。
「軽いが、大型の魔物でも一撃で倒せる威力がある。ギルに余裕があるなら考えてみるといい。」
 ヴァンは「ありがとう」という言葉を飲み込んで、曖昧に頷いた。帝国兵から武器のアドバイスをしてもらうなんて、なんだか変な感じだ。
 その帝国兵は、ショーケースに並ぶ武器を一つ一つ手にとった。
「・・・我々はこうやって市場に流通する武器の調査をしている。我々がこうして調査をすることで賊も武器の調達がしにくくなるのだ。もし、賊に強力な武器が流れたらどうなる?それは新たなる戦乱を意味するのだよ。だからこそ、我々が絶えず目を光らせているのだ。」
 そう言って、兵士は再びヴァンに目を向けた。
「だが賊は巧妙に我々の目をすり抜ける。我々の働きが充分だったら、先日の王宮での騒ぎも防げたかもしれんと思うと、忸怩たる思いだよ。・・・君も不穏な輩に気付いたら、遠慮無く申し出てくれたまえ。」
「うん・・・」
 ヴァンはただ俯いた。
 この人は、心からそう思ってるんだ。
 自分達がラバナスタを守ってるんだと。自分達が守るべきなんだと。

 でもさ・・・

「シャルアールさん!ちょっと教えてくれませんかねぇ!」
「なんだ?私で分かることかな?」
 他の客から声をかけられて、そのシャルアールと呼ばれた帝国兵は店の奥へと行ってしまった。







「え?まだ戻ってないのか?」
「うん。」
 ヴァンの言葉に、ミゲロの道具屋の店先でキョロキョロしていたカイツは首を縦に振った。
「配達かと思ってたら、今日は最初からお店に来てないらしいんだ。・・・珍しいよね。パンネロねえちゃんがサボるなんてさ。ミゲロさんもちっとも帰ってこないし。」
 そう言ってカイツは落ち着かなげに何度も通りに目を遣った。
「僕も店番で大変なんだよね。ダラン爺の用事もあるのに手が離せないんだよ。」
「ダラン爺?」
「うん、何の用事か分からないけど、ちょっと来て欲しいんだって。ダラン爺のお手伝いさんが買い物ついでに伝言をくれたんだ。」
「ダラン爺か     
 ヴァンはポケットに手をやった。その中では女神の魔石と太陽石が仲良く眠っている。
「なあ、俺が代わってやろうか?」
 ヴァンはカイツの顔を覗き込んで言った。
「いいの?!」
 カイツは目を輝かせて飛び上がった。あんまりカイツがほっとした顔をするので、ヴァンは何だか照れくさくて頭をかいた。

     どうせやることもないしな。」







「モグシーが再開したクポ!街の主要ポイントに瞬間移動できる便利なサービス。それがモグシークポ!」
 市街地東部から外門前広場を抜けて南門をくぐると、人並みの間から元気に客引きをするモーグリの声が聞こえてきた。
 モグシーは5人のモーグリがやっているタクシーサービスだ。東西南の三つの門と、北西部のムスル・バザー前と東北奥の砂海亭前に停留所があって、そこに待機しているモーグリに頼めば、テレポ    .瞬間移動    .の魔法で一瞬で他の停留所まで送ってくれる。
「しかも、代金はな~んと無料っ、クポ!乗り場はあっちクポ。停留所が目印クポ!。」
 紫色の大きなつば広帽子を被ったモーグリが跳ねるようにして南門前の停留所を指さした。
 ヴァンはその小さな手が指さす方に歩いていった。クルクルと回転灯の光るスタンドの正面に、赤いとんがり帽子に赤い服のモーグリが立っている。
「よ、ホルン。」
「こんにちはクポ。」
 ピンクの鼻の上にちょこんと鼻眼鏡を乗せたモーグリは、細い目をもっと細くして律儀にピョコンと頭を下げた。頭の先の大きな赤いボンボンもピョコンと揺れる。
「エライ人のパレードがあった関係で、しばらくお休みだったクポ。でも、いよいよ復活なのクポ~!どこに行くクポ~?」
「モグシーはまた今度な。それよりホルン。・・・パンネロ見なかったか?」
「クポ?」
「ここを通ってギーザ草原に行くのを見かけたかと思ってさ。」
「見てないクポ。・・・通ったらモグが見てると思うけど・・・クポ。」
 ホルンは生真面目に赤い帽子の頭を振った。
「そっか・・・」
 ヴァンは門の向うのギーザ草原の空に目を遣った。空は真っ青に晴れ上がっているのに、ヴァンの胸の中は灰色の雲に翳ったように落ち着かなかった。
 しばし立ち尽くすヴァンの傍らを、お喋りしながら市民達が通り過ぎていく。
「なあ、ダウンタウンにいた奴見たか?汚ねえ格好をしたヒゲのおっさんだよ。何か目つきの悪い連中が、後をつけてたけど、大丈夫かねぇ?」
「さあ・・・そういう連中って関わらない方がいいんじゃないか。」
「俺も正直、関わりたいとは思わないけどな。」

『反乱軍はすぐに私を見つけるだろうな。』

 忘れがたい声が耳に蘇った。
 ヴァンは唇を噛んだ。
(俺だって・・・関わりたいとは思わないよ     .

 それより、パンネロは本当にどこに行ったんだろう。
 ヴァンは南門のすぐ脇にあるダウンタウンへ降りる階段を駆け下りた。







「おう、元気そうではないか。ナルビナ送りと聞いとったが。」

 ダラン爺は相変わらず人を食った調子でヴァンに声をかけた。いつものようにお気に入りの椅子に腰をかけ、お気に入りのピンクのウサギが膝の上で欠伸をしている。
 今しがたまで何か書き物をしていたのだろう、蝋燭の炎が揺れる粗末なテーブルの上には紫の表紙の本と、まだインクで湿った羽根ペンが乗っていた。
「抜け出して来たんだ。」
 悪戯っぽい好奇心に満ちた目を向ける老人に、ヴァンもちょっと得意ぶって答えた。
「それだけじゃなくて     ほら。」
「何と、盗み出しおったか!」
 ダランはヴァンの手の中の女神の魔石を見て、腰を浮かさんばかりの声をあげた。
「ダラン爺が色々教えてくれたおかげだよ。」
 ヴァンは笑顔を返した。
(もうちょっと詳しく教えてくれても良かった気もするけどさ。)
「ふむ     .ガキだと思っとったが、やるようになったのう。」
 ダランは真っ白な長い髭をしごきながら、感心したとも呆れたともいえる惚けた調子で唸った。日に焼けた皺だらけのその顔は、どこまでが本音なんだかさっぱり分からない。
 ヴァンは思った。
 ダラン爺はどこまで知っているんだろう。
 一度使ったら光を失った太陽石。・・・ダラン爺もあの場所で使ったことがあるんだろうか。
 今夜はやめて一晩考えろって言ったのは、あの夜の襲撃のことを知ってたからだろうか。
 そしてアマリアのことは     .
「なあダラン爺、俺、聞きたいことが・・・」
「よし、ヴァンよ。」「あ・・・」
 ダランはヴァンの声が聞こえたのか聞こえなかったのか、相変わらず飄々とした調子でさっさと自分の用件を進め始めた。
「・・・お前を見込んで頼みがある。」
(トボけちゃってさ・・・)
 ヴァンは小さく溜息をついた。
「カイツに任せるつもりであったが、お前の方が相応しかろう。いや     .

     お前でなくてはならん。」

「?!」
 突然、厳しくなったダランの口調に、ヴァンは思わず息を飲んだ。
 目の前の老人の口からは人を食った微笑は消え、穏やかに曲がった腰は椅子の上で真っ直ぐに伸びている。
 ダランは脇を向くと、傍らから布に包まれた長くて重そうなものを取りだした。
「こいつをな、アズラスという男に届けてくれんか。」
 ダランの萎びた指が布をめくった。.
 今度はヴァンがダランの手にある物を見て驚く番だった。「これって     
     騎士団の剣じゃないか!」
 ヴァンは驚くままに、その美しい剣を手に取った。
 エメラルドとターコイズを惜しげもなくちりばめたその剣は、束も鞘も精緻な象眼と彫金に埋め尽くされ、薄暗い部屋の中で一振りの銀の炎のように輝いている。

 精錬にして比類無き忠義と武勇を誇るダルマスカ騎士団。
 そこに属する騎士のみが持つことを許された、誉れの剣。
 そして今では、これを持つだけで即刻帝国兵に逮捕される、反逆の剣     .

 ひんやりと冷たいその剣は、ヴァンの両手にもずっしりと重かった。
 その重さを噛みしめるようにして、ヴァンはゆっくりと顔をあげた。
 ダランは静かに頷いた。
「アズラスの居場所は”ヒゲ面の男”の足取りを追えばすぐに分かるじゃろう。・・・チビ共が騒いでおるからな。」
 そう言った一瞬、ダランの口調に飄々とした笑みが戻った。
 アズラス・・・ウォースラ・アズラス将軍。
 ダルマスカ騎士団で、あの男と共に武名を轟かせていた     .
「よいか、必ず本人に直接手渡すんじゃぞ。わしの名を出せば取りついでくれるはずじゃ。」
「わかった。」
 ヴァンはしっかりと頷いた。「     なあ、」
「引き受ける代わりにオレもひとつ頼んでいいか?」
「何じゃ?」
「・・・パンネロがどこにいるか調べてくれよ。」
 ダランの白い眉がピクリと動いた。
 じっと見返されたら、何だか気まずくて、ヴァンは言い訳みたいに言葉を継いだ。
「王宮の宝、見せてやろうと思ったのに、見あたらなくて     さ。」
 ダランは穏やかに笑った。
「おう、調べておこう。」
「よろしくな。」
 そう言って剣を手にヴァンが出て行こうとすると、
「おお、ヴァン。もうひとつ・・・」
 ダランが呼び止めた。
「・・・これはアズラスと、その場にいる者皆に伝えて欲しいんじゃ。」
 ダランは、一語一語を石に刻み込むように言った。

     剣の語るものを忘れるな、と。」

「・・・うん。伝えるよ。」
 ヴァンは、どういう意味か聞きたかったが、ダランの真剣な眼差しに、ただ言葉を飲んで頷いた。



 大きな剣を抱えるようにして出て行くヴァンの後ろ姿を見送りながら、ダランは低く呟いた。
「あの剣で、かつての団結を思い出せばよいがのう     







 フィロは吹き抜け広場の近くですぐに見つかった。
「ここの北西の方に怪しいヒゲの人物が連れていかれたらしいのよ。仲間たちに調査へ行ってもらってるわ。・・・でも、うまく人目を避けてたみたいで思ったよりも目撃情報がないのよね・・・。」
 吹き抜け広場の「本部」で情報が集まるのを待っていたフィロだったが、どうも団員達は団長の期待に答えてくれそうもないようだ。広場からろくに行かないところで、のんびり屋のレントがヴァンに声をかけてきた。
「よぉ、ヴァン兄。フィロの指示で調べ物の途中だけど、サボってるぜ。怪しい人物がいたって話しらしいんだ。」
 通路際に座り込んで他の子供達とお喋りをしながらレントは笑った。
「フィロにはワリイけど、そんな奴を探す意味が分からなくってさ。ここでのんびり時間を潰してるぜ。」
 団長の命令は絶対だぞ、ちゃんと探してやれ、と言いたいところだったが、ヴァンは何も言わなかった。「怪しい人物」については、子供は下手に首を突っ込まない方がいい。
(・・・でも、俺は、子供じゃないからな。)
 ヴァンは「包み」を持つ手に力を込めた。

 職もなく昼間から通路の端に座り込んでは無為なお喋りで時間を潰す大人達の間を通り抜け、西へと曲がる路地の方へヴァンが歩を進めると、こちらは熱心に調査中のブリオの姿を見つけた。他の子供を捕まえて、聞き込みの真っ最中らしい。
「フィロからの指令で怪しい人影が消えた現象を調べているところさ。クウゾクたるもの、不思議現象には敏感に、だからね。」
 ブリオは得意げに胸を張った。
「ここから西の奥が怪しいところまでは突き止めたよ。さすが俺だよね。でもこの子が怯えちゃってさ・・・急に姿が見えなくなったからって、その男が幽霊と決まったわけじゃないんだけどな。・・・ふぅ。」
「ま、慌てず地道にいけよ。」
 ヴァンはブリオに軽く返事をして、更に西へ延びる路地へと歩を進めた。
 
 結局西の突き当たりまで来て、ヴァンは足を止めた。
 そこは広場と言うには狭すぎたが、少しだけ開けた空間になっている。市街地への出入り口から最も離れた場所な事もあって、ここに屯する市民達は大人も子供も帝国への遠慮のない憤懣を口にする。
「ほんとにむしゃくしゃするわ、私。こんなところに住まわされて、全然気が休まらないわよ!」
「盗賊団がヴェインの待ち伏せにあったでしょう?もし私達が帝国軍に睨まれたりしたら、あんなふうに襲撃されてオシマイよ。」
「僕らの生活は、帝国の考え一つでいつでもどうにでもされちゃんだよね。運命を握られてるって奴だね。」
「・・・大人びたこと言ってるんじゃねえよ。」
 分別くさいことを言う少年に向かって大の大人が苦笑いしている。
「でも本当にえげつないね、ヴェインのやり方。反抗勢力を袋のネズミにするなんて。明日は我が身かも。いつネズミにされるか・・・。」
 口を尖らせる女性の傍らで、少女がポツリと呟いた。
「このあたりにもラバナスタを帝国から取り戻そうとしている人達がいるみたいだけど・・・。ネズミにされないといいな。」
 そんな中、一人の褐色のシークだけが、ひとり腹を抱えて笑っているのが目に付いた。大口開けて天を向いて、三段腹の肉がブルンブルンと揺れている。
「ブゥックックック・・・ハッハッハ!」
「何がそんなに可笑しいのさ?」
 ヴァンが尋ねると、
「いやあ、まだ夜も明けないうちかなぁ。見事なヒゲの男が通ったんだよ。それが妙に似合ってたもんで、思い出し笑いさ。」
 シークはなおも笑いながら奥の方を顎でしゃくった。
「避難民かもしれないけど、何人かに囲まれて奥の方へ行ったなあ。」
 ヴァンはその方向に目を遣った。
 奥って言っても、どん詰まりじゃないか。空いた木箱や誇りを被った麻袋が山と積まれているだけの・・・。
 だが、ヴァンは見つけた。

     バルザックだ。)

 ヴァンは、木箱の一つに目立たぬように腰をかけている男の姿を認めた。間違いない。「解放軍」の一員、バルザックだ。何時になく緊張した顔で辺りに目を配っている。
 ヴァンは一つ息を飲むと、まっすぐその男の前に立った。
「アズラスって人に届け物があるんだ。ここにいるんだろ?」
 その瞬間、バルザックの顔から音を立てんばかりに血の気が引いた。
「おい、誰に聞いた。」
「ダラン爺さ。直接渡せって言われてる。」
 ヴァンが答えると、バルザックは僅かに安堵の色が混じった大きな溜息をついた。
「ったく・・・・あの爺さんの地獄耳には何もかも筒抜けか。」
 そして、再び射るように鋭い視線をヴァンに向けて言った。「仕方ねぇ。入りな。」

     ただし、ここで見聞きしたことは、誰にも喋るんじゃない。いいな。」
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

Chap.4-2 The Centuri..Chap.4-4 The Memory .. ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。