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Chap.4-2 The Centurio -セントリオ- [Chapter4 剣の記憶]


(気ならとっくに向いてるよ。)
 ヴァンは市街地北部の半円系の大通りをキョロキョロ見回しながら歩いていた。普通のモブなら掲示板を見て依頼人と契約すればいいとトマジは言ったけど、何でも、その『バンガが見張ってる店』に行けば、もっとオイシイことがあるという。

 そうと聞いたら躊躇ってる理由なんか無い。ヴァンはさっそく市街地北部の通りを、クランレポートと同じ文様の看板の店を探しに出かけた。

 ゆったりとして閑静な北部は並び立つ有翼女神像の元からの眺めも格別で、散歩を楽しむにはもってこいだ。だが執政官府が近いせいか帝国兵と赤い帝国旗がより目立ち、当然逍遙する市民達も帝国からの移住者や帝国軍相手に生活している者が多かった。
「執政官が市政にテコ入れを始めたんだって?ダウンタウンも何か変わるのかね?」
「ダウンタウンの人は、本当に帝国を嫌ってるよな。・・・彼らの気持ちはよく分かるけど、私には帝国のすべてが悪いとは思えないんだよ。」
(勝手なこと言ってさ・・・)
 いい生活出来てる奴だから、そんなことが言えるんだ、と、ヴァンは思う。
 地上層で暮らせたって、自由が無いのは同じなんだ。
 ダウンタウンにいれば、帝国から同じ人間扱いされてないことが、ちょっとはっきり分かるだけなんだ。

 それとも、楽な生活が出来さえすれば、俺達だって自由なんかどうでもよくなっちゃうのかな・・・。


「あった!」
 その看板には、クランレポートと同じ4枚の葉を持った若木の意匠が絵が描かれていた。とはいえ、これだけでは何の看板なのか、よくわからない。
 正面の扉を見ると、緑とオレンジの二人のバンガが通せんぼするように立って、厳めしく辺りを見張っている。見るからに怪しい店だ。
「あの・・・」
「ん?」
 ギロリとヴァンを睨み付けたバンガに、
「砂海亭のトマジの紹介で来たんだけど。」
 ヴァンが緑のバンガにクランレポートを差し出しすと、二人のバンガは急に人懐っこい笑顔になった。
「お、ちゃんとクランレポートを持ってるな。だったらそんなところにいないで中に入れよ。」
「初心者みたいだからな、中でよく話を聞くといい。ほら、さっさと入った入った!」
 二人のバンガがせかすようにして大きな扉を左右に開く。
 すると、そこには      .

(なんだ・・・ここ?)

 ヴァンは思わずその場に立ち尽くした。




「それっ!」
「このっ!」
「うりゃっ!」
「まだまだ!」
 激しく拳の触れ合う音が響く。踏ん張った足が激しく床を蹴る。
 逞しいガタイの青いシークと褐色のバンガが組んずほぐれつして取っ組み合っている。
 その周りをヒュムの男女やモーグリ達が取り巻いて、頭が痛くなりそうな大声で、やんやと歓声をあげている。
「ほら、しっかり!」
「がんばれクポ!」
「それでモブが倒せるか!」
「いいぞ!」
 その”にわか闘技場を”撒くように両側に延びた階段には、バンガやシーク達が何人も腰を降ろして大声で談笑したり剣の手入れをしている。呑気なモーグリが小さな羽根をパタパタさせてぶら下がっている階段上のバルコニーには、例の若木の文様を染め抜いた大きな旗がかかっていて、その上で声を上げている白いモーグリの小さな姿が見える。そのまま天井から下がった豪奢なシャンデリアの灯りを見上げれば、その足元を小さなモーグリと大きなシークが跳ねるようにして駆け抜けて、ヴァンは思わず足を取られて転びそうになる。
「うわっと。」
「待つクポ~!」
「ほら、こっちだブゥ。」
 追いかけっこに夢中らしいモーグリとシークは、ヴァンにもおかまいなしに階段の上をクルクル駆けまわる。
 いやはや、まるでおもちゃ箱をひっくり返したみたいな賑やかさだ。
 唖然と目を丸くしている新顔を見つけて、気さくな調子の緑色のバンガが声をかけてきた。
「やあ、新人さんだな?クラン『セントリオ』へようこそ。」
「・・・クラン?」
 ヴァンの言葉に、バンガは長い鼻面で頷いた。
「イヴァリース中から討伐要請のあるモンスターを討伐するハンター達が集まる組織さ。個人で狩るのもいいが、討伐依頼を効率よく受けたり、出現情報を集めたりするには、こういった組織に入ると便利なんだよ。」
 ヴァンは頷いた。そう言えば砂漠の小キャンプの爺さんもはぐれトマトの話をしたら、そんなことを言ってたっけ。
「このクランはモンブランが設立したんだ。各地の掲示板にあるモブの討伐依頼を受けたり、緊急に討伐しなくちゃならないモブや、掲示板に載らない難易度の高いモブを紹介するのが俺達の仕事さ。・・・もうモンブランとは話をしたかい?上にいるから会ってきなよ。」
 そのバンガに頷いて、さっそく階段を上ろうとすると、階段の下に座り込んでヒュムの子供と話をしていた赤いバンガが、ギロリとヴァンの方を見た。
「何だお前?」
 その声には、さっきのバンガとは全然違って愛想の欠片もなかった。
「ここはお前みたいな子供が来るところじゃ・・・。」
 そのバンガは、ヴァンが自分の傍らの子供を見ているのに気付くと、怒ったように牙を剥いた。
「目の前のコイツはいいんだよ。特別だ。」
 その吼えるようなドスの効いた声を遮るようにして、
「あ、君がヴァンでしょ?」
 若いヒュムの女が明るい声をかけてきた。
「トマジの紹介で来たのね?ここの場所を知らないフリしてたでしょ?・・・彼が『見所のある奴がいるから誘ってる』って話をしてくれてから、随分たってるわよ。」
「なんだ、お前がヴァンか?」
 無愛想な”子連れ”のバンガが、またヴァンの方をギロリと見上げた。
「トマジが紹介するっていうから、どんな奴かと思ってたら、ナルビナに放り込まれた馬鹿か。」
「ば、馬鹿って・・・」
 初対面のバンガからいきなり馬鹿呼ばわりされては、ヴァンも黙ってはいられない。だがその赤いバンガは言った。
「パンネロって子が随分心配してたぜ。よくあそこから抜けてこられたもんだな。」
 その言葉には、気色ばんだヴァンも言葉を飲むしかなかった。
     あんたか。パンネロが世話になったっていう人。」
「フフフ・・・モーニって、こんな顔してるけど、けっこう面倒見がいいのよ。」
 女が面白そうに笑った。
「けっ・・・」
 モーニは怒っているようにしか見えない顔でそっぽを向いた。これでも照れてるのかもしれない。
「ろくな腕もないうちから粋がってドジ踏むようじゃ、すぐにモブの餌食になってオシマイだ。ハンターなんてやめときな。またあの子を泣かすぜ。」
 モーニはごつい爪の生えた手で、自分の傍らに座り込んだヒュムの子供の頭を不器用に撫でながらヴァンに言った。
「コイツの両親もハンターでな。ふたりはオレの親友だった。だが、ある伝説のモブの討伐に出て・・・。俺は親友の仇を討つために、あのモブの情報が入るのをジッと待ってるんだよ。ここはそういう場所だ。興味本位で入るなよ。いいな!」
「う、うん・・・。」
 ヴァンは頷くと、怒ったようにそっぽを向いたモーニに、ボソッと言った。
「パンネロのこと・・・ありがと。」
 無愛想に返事もしないモーニを後に、ヴァンは正面の階段を駆け上がった。



 階段の上も色んな種族の連中が集まって、談笑したり武具の手入れをしたりしている。
 ヴァンはキョロキョロと周りを見回した。設立者のモンブランってどの人だろう?モーニみたいな強面の上でリーダーをやってるんだから、よほど貫禄のある     .
「なあ、モンブランって、どいつだ?」
 ヴァンは、バルコニーの上に立って腕を組んで階下を見下ろしている黄色いボンボンの色白なモーグリに尋ねた。
「ヒュムかな?それともバンガ族か?」
 アイスクリームみたいにふんわり白いモーグリは、ヴァンに小突かれると腕を組んだままクルリと振り返った。
「クポポ?君、初めて見る顔だクポ。もしかしてハンターなのクポ?クラン『セントリオ』へようこそクポ!」
 緑の服にカボチャみたいにたっぷりした茶色のズボンをはいたそのモーグリは、円らな瞳をクリクリさせて小さな手をヴァンに向かって差し出した。
「モグはこのクランを作ったモンブランだクポ。以後、お見知りおきをクポ。」
「あ?・・・ああ。よろしく・・・」
(本人だったのかよ・・・)
 ヴァンは三本指でモーグリの小さな手と握手しながら、決まり悪く頭をかいた。
「加入希望クポ?」
「うん。トマジにここを紹介されたんだけどさ。・・・入会資格とか、あるのか?」
「そうなのクポ。加入希望者はきびし~い審査があるクポ。」
 そう言って、モンブランは白い大きな耳を傾けると、ちんまりしたピンク色の鼻をヴァンに向かって突き出した。
「早速、君の審査を始めるクポ。」
「審査ってど・・・」「合格クポ。」
「はあ?!」
 思わずズッコケそうになったヴァンに、モンブランはすました顔で答える。
「合格クポ。モグは決断が早いクポ!」
(早すぎだろ・・・)
 呆れるヴァンにはまったくお構いなく、モンブランはカボチャみたいに膨らんだズボンのポケットから青いポーションの小瓶と小さくたたまれた羊皮紙の地図を取り出した。
「今なら漏れなく入会記念にポーション3本と、この『イヴァリース・ワールドマップ』をプレゼントするクポ!そのうえキャンペーン期間中につき、毎月2ギルのデータ装備費がなんと無料っクポ。太っ腹クポ~!」
「はぁ・・・。」
 なんだか妙に圧倒されっぱなしのヴァンの手に、モンブランはその『粗品』を渡すと、
「じゃあ、下の掲示板から手頃なモブ討伐を請け負うといいクポ!今のところ討伐要請が来てるモブは全部掲示板に貼りだしてあるクポ。がんばれクポ~。」
 モンブランはクルリと振り向いて、また階下のメンバー達へ元気に声をかけ始めた。


 ヴァンが階下に見える掲示板の方へと階段を下りようとすると、”新人”に向かって続々と他のクランメンバーが声をかけてきた。
「やあやあ、新人さんかい?オレはここのハンターでバンサトっていうんだ。よろしくな~。」
 がっちりと肥えた褐色のシークが大きな手で握手をしてきたかと思うと、
「へっ、まだまったくの駆け出しじゃねえか。このクランの評判を落とすなよ。・・・・自分の命も落とすなよ。」
 しなびた顔のヒュムの男は皮肉に笑ってみせる。
「・・・何か用か?」
 めったに街でも見なくなったヴィエラは、声をかけたヴァンを彼女達らしい静かな目で見返した。
「私はセントリオのハンター、カロリーヌだ。自分の腕を試すためにこのクランに入っている。ここにいれば強力なターゲットを探す手間が省けるからな。」
「カロリーヌは、セントリオでも1,2を争う腕利きのハンターなんだよ。」
 おっとりした声に振り向けば、明るい光の差し込む窓際にはダルマスカではめったに見かけないン・モゥ族がいる。長いローブの下には小柄な体に曲がった腰。ヒュム以上の深い知性を持つというその種族は、遙か南のケルオン大陸以外では、ほとんどその姿を見ることはない。
「君は新入りかい?私はマッケンロー。よろしく頼むよ。」
 白髪の眉の下でン・モゥらしい小さな丸い目が笑っている。
「私は他のメンバーみたいにモンスター退治はできないが、情報収集にはちょっと自身があってね。討伐するモンスターのことなら、私に聞いてくれ。知ってる情報は何でも教えてあげよう。」
「うん、ありがと。」

 なんとも、色んな種族の者達がいる場所だ。賑やかな者、物静かな者、ヒュムもヴィエラもン・モゥまで、色んな連中が混然となって、それぞれの目的を持って集まっている。それが熱気と明るいエネルギーになってこの空間を一杯に満たしている。
 ここだけは、帝国の占領なんて別世界の事みたいだ。
 ヴァンは何となく戦争前のラバナスタの街を思い出して、思わず頬が緩んだ。



(どれがいいのかな・・・)
 階下の掲示板の前でヴァンは腕を組んだ。使い古された大きな掲示板には、サボテンみたいな奴や、幽霊みたいな奴の手配書が張り出してある。
「テクスタ     .ウルフ変異種、依頼人:ガスリ(ラバナスタ)。・・・これなんか楽そうだな。」
 ヴァンは極彩色の変わった毛色の大きなウルフの手配書を読んでみた。
「えーっと、・・・『勇気のある方、どうかこいつを倒してください!これからの私の人生がかかっています。私の名はガスリです。ムスル・バザーでお待ちしています。』」
 ふん、人生がかかってると聞いちゃ、ほっとくわけにはいかないよな。
「しょうがない、行ってやるか。」
 ヴァンは一人前に勿体付けたように肩をすくめると、手配書を引っぺがしてクランレポートに挟み込んだ。
「新人さんクポ?じゃあモグが助言をするクポ。」
 白いツナギに紫色のボンボンのモーグリがやってきて、一緒に掲示板を覗き込んだ。
「モブの張り紙はイヴァリース中のあちこちにあるクポ。ときどきチェックに行くといいクポ。新しいのが張り出されていたりするクポ。どこの掲示板でも情報は同じクポ。だから、いちばん近くにある掲示板を見ればそれでOKなんだクポ~。」
「じゃあ、同じモブをイヴァリース中のハンターが取り合うのか。」
「そうクポ。」
「じゃあ・・・」
 ヴァンは張り出された他の数枚の手配書を、ろくすっぽ読みもせずに片っ端から引っぺがした。
 たくさん数をこなして、たくさん報酬をゲットすれば、それだけ早く飛空艇を買うギルも貯まるというものだ。
「モンブラン!これ全部、俺が受けたからな!」
 手配書を片手にヴァンが手を振ると、
「あ、言い忘れてたクポ!」
 バルコニーから下がるセントリオの旗の上で、モンブランがピョコンと飛び上がった。
「モブ討伐は一度請け負ったらキャンセル出来ないクポ。クーリングオフも受け付けないから、一度受けたら死んでも討伐は達成するクポ!」
「・・・へ?」
「それから、セントリオには社会保険も労災保険もないクポ。経費は全部そっち持ちだから、後で領収書を持ってきてもダメクポよ。ちなみに、もしモブにやられちゃってもセントリオは一切関知しないクポ。死して屍拾う者無しクポ。残念だったクポ。」
「おい・・・」
「それから諸般の都合により、手配書を剥がした時点で請負い完了ってことになってるクポ。だから、そいつらはヴァンが全部責任持って、死んでも討伐するクポ!」
「ちょ・・・」
     じゃ、頑張るクポ~!!」
 そう言って、モンブランは虫も殺さぬ笑顔で、元気に黄色いボンボンと小さな手を振った。

 ヴァンは思った。

(・・・もしかして俺、ナルビナ城塞よりヤバイ所に来ちゃったのかも。)

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