SSブログ

Pro.3 Memoir -回顧録- [Prologue]


       その手記は語る。


ラスラ殿下の戦死は ダルマスカ王国を見舞った悲劇の一つに過ぎなかった。
王女アーシェ殿下の結婚がもたらした希望は失われ、
ダルマスカ王国は時代の荒波に呑まれようとしていた。

東のアルケイディア帝国と西のロザリア帝国がイヴァリースの覇権を争う戦乱の時代、
アルケイディア帝国は、西方進出の第一歩としてナブラディア王国を侵略。
ラスラ殿下の祖国は業火の下で滅び、
ついで帝国の侵攻を受けたダルマスカ王国も同じ運命を辿りつつあった。
ナルビナ城塞における敗北で、ダルマスカ王国は戦力の大半を失っていたのである。

 イヴァリース。

 内ナルドア海を囲んで北にバレンディア大陸、南にケオルン大陸、西には、その東端をガルテア半島が占めるオーダリア大陸が位置する、広大な地域の総称である。
 ミストと呼ばれる自然のエネルギーに満たされたその世界には、多様なる環境の下で様々な種族が共に息づいている。
 中でも最も多くの人口を占めるヒュム(人間)族は、古代より幾多の国家を打ち立て、興隆と滅亡を繰り返しながらイヴァリースの覇権を争ってきた。
 そして約700年前、”覇王”レイスウォールがイヴァリース全域を統一、ガルテア連邦を打ち立てる。
 今も伝説的な「黄金の時代」と称されるレイスウォール王の治世の後、三百有余年を経て、王家の断絶に伴いガルテア連邦は解体。王家の血筋に当たるダルマスカ王国とナブラディア王国、そして多くの小国へと、イヴァリースは再び分裂の道を辿った。

 そして現在、ガルテア半島に位置するダルマスカとナブラディアを挟むようにして、バレンディア大陸には、ガルテア連邦時代の一都市国家から軍事大国へと変貌したアルケイディア帝国、西には連邦解体後に成立したロザリア帝国が台頭、この二国が激しく覇を競う時代となっていた。
 両大国の陰の下に多くの小国家が飲まれていく中、ダルマスカ、ナブラディア両王国は、覇権に抗するため、ダルマスカ王唯一の後継者である王女アーシェとナブラディア王第二王子ラスラとの結婚による、同盟関係の強化を図った。
 本来兄弟国である由緒正しき二国の後継者同士の結婚は、両国の未来に希望を与えるものとして、ダルマスカ国民の歓喜の中で執り行われたのだった。



 だが、その喜びの日から僅か数日後、
 アルケイディア帝国の西に接するナブラディア王国で、親ロザリア派の雄であるオーダリア家が内乱を起す。
 それを機に、ロザリア帝国とアルケイディア帝国の双方が「支援」と「防衛」を名目に飛空艇艦隊をナブラディアに派遣、ナブラディア・ロザリア連合軍とアルケイディア軍との間で紛争が勃発したのである。
 時をおかず、ダルマスカ王国も同胞ナブラディアを支援すべくアルケイディア帝国に対して宣戦を布告。ナブラディアの内乱に端を発した紛争は、ナブラディア・ダルマスカ・ロザリア連合軍対アルケイディア帝国軍という、ガルテア半島を舞台にした大戦へと拡大した。

 しかし、その大戦の経過は、意外にも一方的なものであった。
 驚くべき速さでアルケイディア軍はナブラディアを制圧、いや、ナブラディア自体がアルケイディア軍の攻撃により「消滅」したとも伝えられた。
 焦土と化したその地からは、壊走する残存艦隊はおろか、国外へ逃れる難民達すら見ることがなかったのである。
 ナブラディアに派遣されていたロザリア艦隊も共に壊滅、ナブラディアの南に位置するダルマスカ王国は、圧倒的なアルケイディア軍の前に単独で立ち向かうことになったのである。

 そして国境の要衝ナルビナ城塞での凄惨な攻防戦を制したのは、またもアルケイディア軍であった。
 ダルマスカ軍は、総大将ラスラをはじめ多大なる戦力を失い、ダルマスカ領内の制空権もアルケイディア飛空艇艦隊の手に落ちていた。
 もはやダルマスカがナブラディアと同じ運命を辿るのは時間の問題と思われた。



忠勇なるダルマスカ騎士団は反攻を試みたが、
圧倒的に優勢な帝国軍に抗し得るはずもなく、ほぼ全滅に追い込まれた。

やがてアルケイディア帝国は和平を提示。
事実上の降伏勧告であった。


 ナルビナ城塞を平らげたアルケイディア帝国ガルテア鎮定軍の前に、もはや立ち塞がるものは無かった。
 アルケイディア軍の誰の眼にも、連なる東ダルマスカの砂丘の向こうに、王都ラバナスタの街を取り巻く城壁と王宮の優雅な尖塔が映っていたであろう。
 だが王都ラバナスタを前にして、戦艦リヴァイアサンを旗艦とする第8艦隊は、その進軍を停止する。
 そして示されたのは、アルケイディア軍支配下にあるナルビナ城塞にダルマスカ王自ら出向いての「和平協定」締結という、屈辱的な提示であった。
 たが、ダルマスカ王国に、それを拒む力は残されてはいなかった。



わが旧友、ダルマスカ王ラミナス陛下はやむなく降伏を決断。
和平協定に調印するため、帝国軍占領下のナルビナ城塞に向かった。

だが、陛下がラバナスタを発った直後、
わずかに生き残ったダルマスカの騎士達は、不穏な情報を察知する。




”和平協定調印式において国王暗殺の策動あり”


                     .ハルム・オンドール4世「回顧録」「12章 落日の王国」
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。