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Pro.2 704B.I Kingdom of Darmasca  -704B.I ダルマスカ王国- [Prologue]

  子供達は歌っていた。


   遥かな森の都から 王子様がいらっしゃる
   響く鐘の音 風の歌
   今日は姫君様の御婚礼

   響く楽の音 鼓の音
   舞い散る花びら 雪のよう
   兵隊さんも手を止めて 剣の代わりに花を持つ

   青い御空に 白い鳥
   今日は姫君様の御婚礼
   砂漠の都ラバナスタに 王子様がいらっしゃる

 

 どこまでも続く青い空の下、鳥達は高く飛び、空には大小様々な飛空艇が飛び交う。

 ガルテア半島の東端に位置するダルマスカ王国。国土の多くを占めるダルマスカ砂漠の中央に、まるで石造りの船のように浮かぶオアシス都市、王都ラバナスタ。古代ガルテア連邦より連なる古い歴史を誇る古都である。
 その街中が、今日は活気に溢れ、喜びに満ちた人々で埋まっていた。
「はい御免よ!どいとくれ!」
「御成婚記念の今日だけだよ。」「ありがとう。もらっとくわ。」
 今日は商人達も気前がいい。客の懐も緩みがち。誰もが笑顔に笑顔を返す。
 ダルマスカ国王ラミナス・バナルガン・ダルマスカ王の一人娘、アーシェ王女の婚礼の日なのだ。
 露店が庇をぶつけ合うようにして連なる市民の台所ムスル・バザーは、パレードを一目見ようとする人々でごった返していた。
 溢れんばかりに盛られた果物が甘い香りを放ち、この時とばかりにお祝いムードを当て込んで駆けつけた行商人達も各地の物産を並べ、景気のいい呼び込みが手招きをする。
 値切る者も、売り込む者も、今日はいつも以上に掛け合いを楽しんでいるかのようだ。
「パレードまだかなぁ。」
 その声に応えるようにガルテア大聖堂の鐘が鳴り始めた。人々の流れは徐々に北の王宮前広場へと流れていった。
 東の商業地区からも商売どころではないと、店主達まで店じまいもそこそこに広場へとかけつける。
 東西南の門からは続々と人々が流れ込み、街中が花に溢れるラバナスタの街に目を細めた。
「いよいよ始まるのね。」
 滅多に森を出ることも無いヴィエラ族の娘達が微笑む姿さえ見ることが出来た。


 ファンファーレが響く。
 鉦が鳴り、モーグリ達の行列が、気張った顔で太鼓を打ち鳴らす。
 紺青の空の下、舞降る白い花吹雪。
 様々な種族達の楽団が喜びの歌を奏でる後に続いて、広場を埋め尽くす群集の歓呼を浴びながら、美しく飾られたチョコボが威風堂々と胸を張って車を牽く。
 その上で手を振るのは、純白の婚礼衣装に身を包んだアーシェ王女。
 現国王ラミナス・バナルガン・ダルマスカ国王のただ一人の後継者である。
 ほころび始めた花のような17歳の初々しい花嫁の傍らに立つは、白銀の鎧も精悍な、隣国ナブラディア王国の第二王子、ラスラ・ヘイオス・ナブラディア殿下。
 共に先祖を同じくする兄弟国ナブラディア王家の18歳の若き王子である。
 二人は国民の歓呼に答え、幸福に輝く笑顔を互いに交わす。
 有翼のガルテアの女神達の巨大な立像が立ち並ぶ御許、ガルテア大聖堂内へと歩を進めた二人は、司教の前で共に手を取り永久の絆を誓った。
「大いなる父の名において、汝ら二人を夫婦であるとみなす     .
 司教の荘厳な声を聞きながら、王子と王女は互いの指に金の指輪を挿す。
「恵み深き神の祝福が、汝らの行く道にとこしえにあらんことを     
 王子は肩を優しく抱き寄せる。王女は目を閉じる。

 二人の唇と唇が重なる      .

 それは、ダルマスカ王国の希望そのものの姿であった。


      .ファーラム」


 





 花吹雪の舞った王宮に、軍靴の音が響いたのは、それから僅か数日後のことだった。


 「将軍閣下!どちらへ?!」
 ガルテア様式を今に伝える王宮の優雅な調度の間に、その男の黒いマントと鉄灰色の甲冑の鈍い光が影を射す。
 兜もつけぬその男は、すれ違う者達に目もくれず、一心に奥へと進む。
 有無を言わせぬその気配に、周りの者はかける声を思わず呑んだ。


 ラスラ王子の故国ナブラディア王国内で、親ロザリア帝国派が反乱を起したという一報が飛び込んだのは、婚礼の余韻も冷めぬ日の未明のことだった。
 時をおかずロザリア帝国大本営は「ナブラディア支援」の名目で飛空艇艦隊のナブラディア派遣を発表。覇を競う一方のアルケイディア帝国は「帝国の防衛」の名の下、皇帝の嫡男ヴェイン・カルダス・ソリドール率いる西方総軍から、戦艦リヴァイアサンを旗艦とする「ガルテア鎮定軍」を組織して出動させた。
 この20年近く、小規模な紛争のみの歪な平和を保っていたイヴァリースの地を、再び巨大な戦火が覆おうとしていたのである。


 男はまっすぐ奥へと向かう。
 甲冑の軋む金属音と、重苦しくも高ぶった軍靴の進む硬い音が、回廊の高い天井に反響する。
 それはまるで不吉な運命が王国の扉を荒々しく叩いているかのようであった。
 

 その時、王宮執務室では、ダルマスカ国王ラミナス臨席のもと幕僚達による戦略会議が開かれていた。
 机上の空図にはアルケイディア軍飛空艇艦隊を示す不吉な赤い光が、留まることなく北から南へ、そして西へと異様な速さで動き続けている。それはアルケイディアを発した西方総軍第8艦隊がナブラディア王国を経てダルマスカ領へと迫る様を示しているのだった。
 幕僚達の固い声は続く。
「この後、アルケイディアが陸、空、双方からの同時攻撃を開始すると       .
 その時、荒々しく扉が開き、甲冑姿の一人の男が乗り込んできた。

「ナブディスが落ちた!」

「何っ?!」
 ラミナス国王を初め、脇に控える王子ラスラも幕僚達も同様に息を呑んだ。ラスラの祖国であり、ダルマスカとは覇王の時代に遡る兄弟国であるナブラディアの陥落である。
 一報を伝えた男、バッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍に向かって、王子ラスラはたまらず尋ねた。
「父は?!」
「分りません、ラスラ様。」
 将軍はただ首を振った。 「ナブディスが落ちたとなると      .
 祖国の陥落の報に大きく動揺するラスラの思いを断つかのように、幕僚達は空図に目をやり、変らぬ冷徹さで続ける。
「アルケイディア軍のダルマスカ侵攻を妨げるものは何もありません。奴らが国境を越えるのは時間の問題です。」
 国王ラミナスは、刻まれた皺の一筋一筋に重い苦悩の影を宿して唸った。
 ナブラディアが常に内乱の危機をはらむ不安定な内情を抱えていたとはいえ、ダルマスカとほぼ同じ国力を持つ国家である。友軍の支援もありながら、その王都が会戦から僅か半月にて陥落した。それが意味するものは余りにも大きかった。
「ではナルビナには・・・」 「私が行こう!」
 将軍バッシュは国王の回答も待たずに踵を返した。それをラスラの声が追う。
「御一緒させてください!」
 ラミナスは深い苦渋と共に若き後継者に向かって頷いた。



 




 ガルテア様式の建築美の粋と言われるダルマスカ王宮。その並み居る尖塔と東西に腕を広げる巨大なアーチに抱かれるようにして広がる王宮前の広大な広場。
 立ち並ぶ巨大な有翼女神像が見下ろす中、ダルマスカ王国軍が全土から続々と集結する。
 空には兵士を満載した飛空艇部隊が上空狭し唸りを上げて浮かび、グロセアエンジンの青白い光が金色の船体を照らす。
 構成人員のほとんどをヒュム族が占めるアルケイディア軍と違い、ダルマスカ軍はその国家の性格を反映して、多様な種族から成っている。
 硬い鱗に覆われた肌も露な力強いバンガ族の戦士達、大きな体を甲冑で包み戦斧を手に気勢をあげるシーク族、長い耳と優美な肢体を持つヴィエラ族の弓兵、そして隊列に加わる飛空艇からは、ヒュムのチョコボ騎兵隊が続々と吐き出されて進軍に加わる。その飛空艇部隊を支えるのは小柄なモーグリ族達の繊細な技術力なのだった。
 共にダルマスカの自由と誇りをを守らんと、心を一つとして王宮前広場を埋め尽くした5万余のダルマスカ軍を前に、国王ラミナスは、総大将ラスラに王家を守護する一振りの宝剣を授けた。
「ガルテアの加護をそなたらに。」
「ありがたき、幸せ。」
 若き総大将は、厳しい表情で応える。国王の傍らに立つ妻・アーシェ王女を想いを込めて見詰める。王女もその目を見詰め返して小さく頷いた。
 王子ラスラも意を決して頷くと、風に白いマントを靡かせ剣を抜き払いながら振り返った。
 剣はダルマスカの強い陽光を反射して白銀の火の様に輝く。
 5万のダルマスカ兵を前にして、若き総大将は剣を突き上げ、高らかに鬨の声を上げた。
「うらぁぁ       .ッ!!」
 真っ黒に広場を埋め尽くした兵士達も一斉にそれに応える。
 剣が閃き、槍の林が紺青の空に届かんばかりに突き上げられる。
 5万の鬨の声は、古都ラバナスタを揺るがして地鳴りのように響き渡った。


 ダルマスカ王国軍、東の国境・ナルビナ城塞へ向けて進軍開始。
 アーシェ王女の婚礼から、まだ一月と経ってはいなかった。



 




 ダルマスカ王国東部国境、ナルビナ城塞。
 オーダリア大陸とバレンディア大陸を結ぶ狭いガルテア地峡に位置し、ダルマスカ王国とナブラディア王国との国境を守る要衝である。三方を高く厚い城壁に囲まれ、モスフォーラ山地より連なる丘陵が回り込む東側は険しい絶壁と一体となって侵入者を阻んでいる。数々の白い尖塔が並び立ち、オレンジとターコイズブルーに彩られた鮮やかな屋根は、繊細な装飾と相まって、周りを取り巻く砂漠の単色と鮮やかな対照を為す。中央に聳える主塔からは、オアシスから汲み上げられた清冽な水が、三筋の滝となって裾を取り巻く緑の樹々の中に流れ落ちる。
 難攻不落の守りと共に、その美しい姿を讃えられる、ナルビナ城塞。
 南北に二つの大陸を結び東西に海が迫るその地勢から、平時は各地の物資が集まる交易の地として賑わいを見せていた。

 そのナルビナも、今は商人の姿は無く、滝もその流れを止め、夜の闇の下、圧倒的なアルケイディア西方総軍第8艦隊の総攻撃にさらされていた。
 夜陰を照らして戦艦イフリートの吐く砲火が城塞に降り注ぐ。
 城塞全体を包むほどの巨大なエネルギー球が青と緑の炎を上げる。
 飛び交う小型哨戒艇レモラが尖塔ギリギリまで降下して掃射をかける。
 それでも城塞は揺るがない。上空を覆う魔法障壁が悉く飛空艇の空爆を跳ね返す。砲撃を跳ね返すたびに空間が巨大な波のように歪み妖しい光彩を放った。

 ナブラディアを落し、足を止めずにダルマスカ領内へ攻め入った通称「ガルテア鎮定軍」     .アルケイディア西方総軍第8艦隊を中心とする精鋭部隊      .を、ダルマスカ王国軍は総力を挙げて迎え撃った。
 しかし、圧倒的な火力を持つ帝国軍の艦隊の前に、ダルマスカの飛空艇部隊は圧倒され、制空権は瞬く間に帝国軍の手に落ちた。
 林立するシャフトに幾多のグロセアリングの青い輪が回転し、炎の色の光を巨大な口の様に船腹から放つのは、第8艦隊の主力艦イフリート。障壁を破れとばかりに砲撃の炎を豪雨のように降らせ続ける。
 その背後、夜陰に白く浮かぶは、旗艦リヴァイアサンの艦首も鋭い三稜体の圧倒的に巨大な姿。それを取り巻く護衛艦カーバンクルの赤い装甲がルビーのように輝く。
 それでも城塞自体はダルマスカ軍魔導士による魔法障壁によって上空からの攻撃に耐えていた。
 第8艦隊の物量に任せた激しい空爆を、クリスタルと魔力の生み出す無形の障壁は、受けては飲み込み、跳ね返した。

 しかし、魔法障壁が対応できるのは空からの攻撃のみである。雲霞の様に押し寄せる帝国地上部隊の攻勢に、城塞の守りは土台から崩されようとしていた。
 城壁の外は砂漠の砂も見えぬほどの数の陸兵達が地を埋め尽くし、敵味方入り乱れて凄絶な白兵戦が続いていた。甲冑を叩く剣戟の音、かぶとを貫く槍、唸る矢。チョコボ騎兵は鉄の鉤爪で敵兵を蹴り裂き、群がる歩兵を蹴散らす。
 アルケイディア兵もダルマスカ兵も、盾が砕ければ両手に剣を持ち、味方が斃れれば味方の屍を踏み越えて闘った。
 帝国軍の圧倒的な数と戦力を前にしても、ダルマスカ王国軍は果敢に闘い、よく耐えていた。
 しかし、陽が落ちる頃には城門は既に破られ、ダルマスカ軍は城塞の内部に大量の帝国兵の侵入を許していた。
 総大将ラスラと将軍バッシュもチョコボを駆って自ら城塞内で奮闘を続けていた。見下ろす城塞全体が、もはや互いの剣と盾がぶつかり合う混戦の場となっていた。
 剣と甲冑が闇に火花を散らしあう中、跨る鳥を我が足のように操りながらバッシュの放つ弓が次々と帝国兵を射抜く。
 駆けるチョコボの強靭な足が容赦なく敵兵を跳ね飛ばし、ひるんだ者の甲冑を豪弓の放つ矢が貫く。黄色の矢羽が次々と朱に染まる。
 それでも無限に湧くかのように敵兵は次々と押し寄せる。もはや総大将を守る騎兵もバッシュ以外に残ってはいない。新たな矢を番えつつ、バッシュがラスラに向かって叫んだ。
「ここは落ちます!撤退しますぞ!」
「まだだ!まだ魔法障壁がある!」
 チョコボの上で盾も持たずに白刃を奮うラスラは答えた。頭上で空爆を跳ね返し続ける障壁がそのたびに大きく歪んで空全体が波のように揺れる。
 水底から見るような夜空に、黒い巨大魚のようなイフリートの船腹から炎が滝のように降り注いでは跳ね返されていた。


 だが、ついにその防壁が破られた。
 城塞最深部、虹の七色に輝く巨大なクリスタルを囲む術者達の前に、アルケイディア兵の黒い甲冑が雪崩れ込んだのである。
 城塞の上空全体に魔法の防壁を生み出すため、全霊を込めて詠唱する術者達に身を守る余地は無い。
 「うわぁっ!!」
 術者達は兵士の振るう刃の前に次々と斬り倒される。逃げる者も容赦なく引き据えられて殺された。
 クリスタルの神聖な輝きの前での凄惨な殺戮が続く。
 最後の術者の喉が、虚しい詠唱と共に最期の息を吐き尽くしたのを見届けると、帝国兵はその剣を喉笛から引き抜いた。
 背後で、巨大なクリスタルは瞬く間に色を喪い、その光は水が乾涸びるように萎んで消えていった。



「ダメだ!」 「魔法障壁が!」
 突如、空を覆っていた魔法の屋根が消失した。奮闘していたダルマスカ軍に絶望の悲鳴が上がった。
 爆撃が一気に陸兵の頭上を襲う。星をも凌ぐ数かと思わせるグロセアリングの青白い光が今やはっきりと鬼火のように夜空を埋め尽くし、地を蠢く兵士に向かって容赦なく爆撃の雨を降らせる。
 視界一杯に爆炎があがり、吹き飛ばされた兵士の体が四散する。
 巻き上がる爆炎を縫うように超低空に飛び込んでくるレモラの掃射に、チョコボも兵士もバタバタと折り重なって斃れる。
「ここまでか!」
 無念の声を絞り出して、バッシュがチョコボの手綱を引いた。続くラスラも血刀を振って轡を返す。
 カーバンクルの紅玉色の装甲が、城壁に衝突せんばかりに接近する。イフリートの砲撃が城壁の一角を一撃で粉砕する。大きく揺れる城塞にチョコボは大きな首を振り、裂く様な声をあげる。
 その時、手綱を引くラスラの手が止まった。「     .父の仇を!」
 ラスラは突如再び手綱を返すと、雲霞の如き敵兵の海に単騎飛び込んだ。
「父の仇を!」
 祖国を離れ、その存亡の狭間に身を置く事ができなかった無念が、ラスラに引くことを許さなかった。自分の後ろには、なおも守るべき国と守るべき人がいる。その想いがラスラを遮二無二前に進ませた。
 白銀に金をあしらった豪奢な鎧が帝国兵の血で朱に染まる。一見して貴人と分る騎上の若者に、功を狙った兵士達がここぞとばかり討ちかかる。
 その姿に、将軍バッシュもチョコボを返して主君の後を追う。
 その眼の端に、城壁の上に果敢に飛び出して長弓を構える帝国兵の姿が映った。
「ラスラ様ッ!!」
 声を上げるより早くバッシュの弓が唸りを上げる。矢は過たず兵士を射抜き、その体はもんどりうって眼下の奈落へ堕ちる。
 だが一瞬早く、その長弓は矢を放っていた。

      .ッ!!」
 白銀の鎧が騎上で大きく仰け反った。無情の矢は、ラスラの胸板を深く貫いていた。
 どうと倒れる主君の体を、バッシュが抱きとめ我が騎上へと横たえる。体勢を立て直す間もなく、斃れた総大将の首を狙って、帝国兵達がチョコボの周りをハイエナのように取り囲む。
 鞍上に横たわるラスラの体はピクリとも動かない。
 今や単騎となった将軍を囲む輪が、ジリッと狭まる。そして尚も集まるハイエナ共はその数を増す。
 ぐるりと囲む黒い鎧。突き出される剣の切っ先、並ぶ槍の穂。
 夜の闇の中、尚も続く空爆の光に青白く刃が輝く。
 頭上には飛空艇が歪んだ唸りを上げ、グロセアリングの青い光が狂ったように回り飛ぶ。
 バッシュはラスラの体に一瞬目を落すと、左手の手綱をギリリと握り締めた。
 その時、巨大な飛空艇が爆炎に包まれながら白兵戦の真っ只中に轟音と共に墜落した。油と肉の焦げる臭いと共に巨大な爆炎が上がり、城塞全体が大きく揺らいだ。一瞬取り巻く輪が緩む。

      .ウラァァッ!!」

 その瞬間、バッシュは雄叫びを上げると、一気にチョコボを敵兵の只中に躍らせた。
「クェェェェ      .ッ!!」
 叫び声と共に飛び込むチョコボの鉤爪鋭い太い足が、立ち塞がる兵士を鎧ごと踏みしだく。荒ぶる嘴は骨を砕き、肉を引き裂く。騎乗のバッシュはラスラの剣を手に取り、右へ左へ寄せ来る帝国兵を薙ぎ払う。
 断末魔の悲鳴とチョコボの叫喚が交錯し、鳥も騎上の者も、その身は返り血で真っ赤に染まった。
 なおも群がる帝国兵は、ある者は鳥の爪にかけられ城塞の下の暗黒へ堕ち、ある者は閃く剣に一瞬にして首を飛ばされた。
 爆炎の中を、血路を開いてバッシュはラスラと共に尚も進み続ける。
 空爆の閃光と、グロセア機関の青い光に照らし出された血塗られたその姿は、鬼神がこの地に降り立ったかと思わる壮絶さ。倒れたチョコボの身を乗り越え、兵士の屍を踏みにじり、追い縋り立ち塞がる者を容赦なく斬り払う。
 獄炎を宿したかのような眼光とその息遣いに、味方の兵さえ戦慄を覚え、思わず追う足を鈍らせたという。

 イフリートの威容が空を圧する。黒い巨体はなおも地に向かって業火を吐き続ける。
 かつて美しさを讃えられた高き尖塔が、炎を上げながら、ゆっくりと崩れ落ちていく。



        .ナルビナ城塞、陥落。









 婚礼の朝から1ヶ月。.

 ガルテア大聖堂に司祭の声は響いた。

「汝の肉体は、大いなる父の祝福を受け、大地へ戻らん      .

 あの日舞い散った花吹雪にもまさる清らかな花々が、今は棺の中で、硬く冷えたラスラ殿下の頬を包み、静かに寄り添っていた。
 共に暗い死の闇へ埋められる時を待ちながら。

 それは、不吉なまでの静けさに閉ざされた葬儀であった。
 殿下の勇敢なる死を悼むべくこの場にあるはずの騎士達は、今も戦地にあった。
 その多くがナルビナ城塞の瓦礫の上で屍をさらし、腐肉を漁る鳥達がその身を無情に引き裂いていた。
 そして今なお剣をとる者達は、ダルマスカの最後の盾となるべく、今この時も砂漠の死線に立って戦い続けているのだった。
 ラスラ殿下の故国ナブラディア王国からは、無念を共にするために駆けつける者すらいまだ無く、陥落後の故国の現状を伝え来る者すらいない。
 大聖堂は、残された老いた者の低い呻き声と、女達の啜り泣きで満たされた。
 
「汝の魂は、母なる女神の元、安らかなる時を迎えん       .


   遥かな森の都から 王子様がいらっしゃる    響く鐘の音 風の歌    今日は姫君様の御婚礼    響く楽の音 鼓の音    舞い散る花びら 雪のよう    兵隊さんも手を止めて 剣の代わりに花を持つ    青い御空に 白い鳥    今日は姫君様の御婚礼    砂漠の都ラバナスタに 王子様がいらっしゃる



 僅か1ヶ月前、輝く青空の下、白いヴェールの下で幸福に微笑んでいた王女は、
 今、闇色のヴェールの陰で、青褪めた頬に一筋の涙をこぼした。


      .ファーラム」

 

 

 

 


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