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Chapter.0 704B.I Nalbina Fortress -704B.I ナルビナ城塞- [Chapter0 ダルマスカ戦役]


「おい、大丈夫か。しっかりしろ。」

 どこかで深い声がした。 
 目の前を何かが動いている。
 ぼんやりとした視界が、少しずつ広がってきた。


 誰かがこちらを見ている。
 正面の人は肩膝を付いてこちらを見ているらしい。左側にもう一人立っている。
 石畳を打つ足音がゆっくりと響く。。
「だから言ったんだ。足手まといだってな!」
 もう一人の声は気難しげで硬かった。その声が耳に刺さって、やっと頭の中がはっきりしてきた。
 視界はなおも揺れる。
 深い声がもう一人に向かって言っていた。
「そんな言い方はよせ。みんな好きで戦ってるんじゃない。祖国を思えばのことだ。」
 頷く相手から振り返って、その人はもう一度こちらを向いた。
 その時やっと、目の前の二人が誰か、自分がどうしてここにいるのかを思い出した。
「立てるか?」
 名乗らなければならないと思った。「レックス・・・」
 誰か他人の声の様に聞こえた。腹に力を込めてもう一度言った。
「レックスです、将軍。」
 今度はもっとはっきり言う事が出来た。目の前の人、バッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍が頷いた。
「そうか、レックス。見たところ外傷は無い。軽い脳震盪だろう。      .さあ、立ち上がるんだ。」
 差し伸べられた手を握った。

 力強い手だった。



「平気か、レックス。」
「あ、はい。大丈夫です。」
 もうふらついてはいなかった。回りもはっきり見ることができた。
 無我夢中で帝国兵相手に剣を振り回しながらナルビナ城塞の外壁を越えてきた。警備兵との乱戦の中で、自分は何かの拍子に気を失ってしまったらしい。
 見回すと、自分と将軍と・・・味方は結局10人に満たない数になっていた。
 将軍の背後に沈みかけた白い満月が見えた。
 周りをぐるりと囲むナルビナ城塞北辺の外壁が、月明かりに黒い姿を浮かべている。将軍は尚も尋ねた。  
「君は何歳だ?」
「あ・・・、17歳です!」
 まさか何度も将軍が言葉をかけてくれるとは思わなかった。緊張して思わず言葉がつかえた。
    .そうか。・・・両親は?」
 逆光の影の中で、将軍は精悍な顔を真っ直ぐ自分に向けている。厳しいが、暖かい目だと思った。
「父と母は死にました。二つ下の弟が、ラバナスタにいるだけです。」
 そう答えると、将軍は何かが強く疼いたかのように僅かに目を伏せた。
「すまないな。君みたいな若者にまで剣を取らせることになって。」
 ダルマスカ一の剛の者と謳われる将軍が、たかが志願兵の自分に誠実に心をかけてくれる。
 胸の奥が、かっと熱くなった。
「いいえ!祖国のためです。父や母、多くの同胞のために      」 「急ぐぞ、バッシュ!」
 アズラス将軍の厳しい声が飛んだ。
「お喋りしている暇はない!」
 回廊の入り組んだ影に目を配りながら、アズラス将軍は言った。彼もまた、ローゼンバーグ将軍と共に忠義と剛勇を並び賞される王国騎士である。
「奴らが集まってくる前に、何としてでも陛下の下へ行かねばならん!」
「ああ、分っている。」
 ローゼンバーグ将軍が振り返った。その時、
「いたぞーッ!あそこだーッ!!」
 突然、近くで帝国兵の声が響いた。ガチャガチャと甲冑の触れ合う音が近づいてくる。数人か。
 将軍は剣を抜き払った。
「ウォースラ行け!ここは俺達が食い止める!」
 一瞬躊躇ったアズラス将軍に、自分もミスリルソードを構えた背中を向けた。
 足手まといにはなりません、そう言ったつもりだった。
 将軍は自分達に向かって深く頷くと、数人の兵を連れて北辺回廊の影に向かって走り出した。

「やあっ!」
 構える間もなく帝国兵が数人で討ちかかってきた。目の前で剣と剣がぶつかって火花が飛んだ。
 思わず剣より先に盾が出る。半歩下がる自分に、嵩にかかって帝国兵の黒い甲冑が迫る。
「うわっ!」
 相手の腕力に、バックラーごと押されて後退る。
 二の太刀が来る瞬間、
「とぉっ!」
「おわっ!」
 将軍の剣が閃いた。目の前の帝国兵がグシャリと倒れる。返す刃が次々と帝国兵を打ち倒す。
 ナルビナ攻防戦でのラスラ殿下の亡骸を守っての将軍の鬼神の如き闘いぶりは、自分達の間にも尊敬と恐れが綯い交ぜになって伝わっていた。噂を越えるその圧倒的な強さを前にして、自分は瞬きも息をするのも忘れていた。
「!!」
 将軍が剣を鞘に戻した時、その足元には6人の帝国兵の骸が転がっていた。
 将軍は静かに息を吐いて、こちらを振り返った。自分の顔を見て、少し微笑んだ。
「焦るなレックス。慌てずやれば出来る。      .行くぞ!」



「我々はこの扉から城内に突入する。」
 将軍は言った。
 そこはナルビナ城塞の北辺回廊へと入る小さな入り口だった。満々と水を湛える堀に囲まれた美しい壁面彫刻に紛れるように、やっと一人が通れるだけの狭い鉄の扉がある。元々常に施錠されて使われることもなかった入り口だ。
 アズラス将軍達が先に侵入したのだろう、古びた錠は外されていた。
 それでも慎重に、将軍はあたりの様子を窺う。
「レックス、周りの警戒を怠るな。」「はいっ!」
 周りを見回すと、いつの間にか夜明けが近くなっていた。空は黒い闇から紺青に光を増して、東の空は朝焼けの薔薇色に染まろうとしていた。
 隣に立つ少し年配のダルマスカ兵が言った。
「レックス、命を粗末にするなよ。自分に出来る事をやればいい。」
 自分を気にかけてくれているのだろう、もう一人が少しおどけた声で言った。
「祖国を救えば弟にも自慢できるぞ。」
 弟・・・ヴァンは今頃まだ眠っているだろう。それとも、眠れずにこの朝焼けを見ているだろうか。
 年配の兵士が暖かい声で言った。
「将軍の指示に従って行動するんだ。      .大丈夫、心配ない。」

 和平協定調印式でのラミナス国王暗殺計画という情報を手にし、その阻止に急遽立ち上がったのは、ダルマスカ騎士団の僅かな生き残り。自分達のような素人同然の志願兵まで掻き集めてのナルビナ城塞進入も、ここまで辿り着いたのは僅かに両手で数えられるほど。
 3ヶ月前の激戦以降、いまや城塞全体がアルケイディア軍の管理下にある中、決死の進入が如何に困難な作戦であるかは誰にも分っていた。
「よし、突入する。」
 将軍の合図でダルマスカ兵達が静かに城塞内に歩を進める。この先の厳しい道程を知ればこそ、将軍は仲間を鼓舞するように言った。
「城塞を占領した帝国軍を蹴散らし、我々の手でダルマスカを救うんだ。」
「はっ!!」
 狭い階段をベテラン兵の後ろに付いて登る自分を見遣って、将軍は言った。
「レックス、君は目の前の敵に集中すればいい。君の背中は私が守る。」
「はい!」



 ナルビナ城塞の裏側にあたる北辺回廊に帝国兵の姿は少なかった。虚を突かれた数人の帝国兵達は国王救出に燃える自分達の敵ではなかった。両側を堀に挟まれた回廊を走り抜けると、正面に内郭の青い屋根が見えた。この中を上へ      .
 突然、将軍が走る足を止めた。
 右上を見上げるその視線を追うと、白い満月に重なるようにして小型飛空艇レモラが黒々と浮かんでいた。
 独楽のような機体を取り巻く大きなグロセアリングが、低く唸りながら青白い光を増した。
      来るぞ!」
 将軍の声に横に飛び退りながらバックラーを構えた瞬間、足元の石畳をレモラの機銃が砕いた。本来は哨戒艇ながら対地攻撃にも有能なレモラを、帝国は対人戦にも多く投入してくる。帝国の戦闘用飛空艇の技術力と経済力の高さを象徴するものだった。
「ひるむな!装甲の隙間を狙え!」
 将軍の声に、自分も超低空でホバリングする相手の直下に必死で飛び込んだ。剣を振るうが思う場所に当てることが出来ない。隙を狙おうと走り回って、離れすぎるとかえって相手の機銃が怖かった。
 だが、流石に将軍は、他の兵が一撃する間に弐の太刀、参の太刀を飛空艇の装甲の隙間にねじ込んでいく。
 グロセアエンジンから青い火花が上がる。
 だが相手は飛空艇だ、簡単には止まらない。懐に入られたと見るや、上昇しながら地に向けて爆弾を投下する。
「うわっ!!」
 避け損ねた自分は、爆風に飛ばされて石畳に2度3度と叩きつけられた。
 肩で息をしながら立ち上がる。仲間達は怯まずに高度の上がりきれないレモラに向かっていた。だが一旦離れると機銃の弾幕が壁となる。
 何か、何か出来ないか。
 非力な自分でも、何か出来るはずだ。
 何か       .
 その時、魔法屋のユグリさんが「お守り代わりに。」とくれたものを思い出した。「帝国の機械仕掛けの武器に効くから。」と。
 無我夢中だった。思うより前に唇は呪文を唱えていた。
「・・・まばゆき光彩を刃となして 地を引き裂かん!」

     サンダー!」

 レモラに向かって延ばした指から眩い稲妻が閃る。電光がレモラ全体を包んで激しく揺さぶる。
 グロセアエンジンがショートして爆炎を上げた。
 ガクンと動きが鈍った。グロセアリングの回転が落ちる。ここぞとばかり、
「うらぁっ!!」
 将軍の剣が束も通れとエンジンを貫いた。
 レモラの機体全体が激しいスパークに包まれる。
 レモラはふらふらと上昇した。
「冗談じゃねえぞ!      アント1よりアントリオン!」
 風防越しに舌打ちするパイロットが見えた。
「発動機損傷!ここらが潮時だ!」
『アントリオン了解!よくやったアント1、後退を許可する。』
「ありがてえ!アント1、離脱する!」

 レモラは激しくスパークを上げながら、北の方角へ去っていった。




 


「ウォースラ!」
 ローゼンバーグ将軍は逸る想いを隠しもせずに、歩きながら辺りを憚らずに声を上げた。
「どこだ?どこにいるっ?!」
 人影のない中層の広い回廊に将軍の声が虚ろに響く。アズラス将軍達の姿はどこにも見えない。将軍達はおろか追っ手の声すら聞こえなかった。
 自分にはどんどん前を歩いていく将軍達に遅れまいとするのが精一杯だった。
      っ!!」
 開いた扉に、剣を構えて飛び込んでみると、そこは狭い衛兵の詰め所だった。部屋の隅には乱雑に槍が立てかけられ、質素なテーブルの上にはかぶとが無造作に転がっている。
 だが人の姿はない。不気味なほど、その場は静かだった。3ヶ月前の陥落と共に城塞も死んでしまったかのようだ。
「まさか、アズラス将軍まで・・・」「馬鹿なことを言うな!」
 思わず自分が漏らした言葉を、将軍の激しい言葉が打ち消した。
「ウォースラはこれまで幾つもの死線を潜り抜けてきた勇者だぞ!こんな所で死ぬような男じゃない!」
 将軍は階上へ向かう暗い階段を見上げた。
「一刻も早く陛下をお助けし、ここを脱出せねば。」
「陛下はご無事でしょうか?」
「無条件での降伏を飲むんだ、調印式が終わるまで流石に手出しは出来んさ。」
「でも、調印式が終わっていたら     
 自分の言葉に、将軍は答えなかった。
 答える暇はなかった。
 階段の上から剣を構えた一団の帝国兵が駆け降りてきたのだ。「こっちだ!」「いたぞ!」
「いくぞ、レックス。」
 将軍は再び剣を構えた。



「ま、待てっ!」「追うな!レックス!」
 将軍の声が自分を止めた。だが深手を負って逃げる兵士を追った自分は、既に数人の帝国兵に囲まれていた。
「小僧っ!!」「     !!」
「レックス、行けっ!」
 将軍が自分の前に仁王立ちになり、帝国兵達を跳ね返す。大きな背中が更に言う。「早くしろっ!」
「もたもたしてんじゃねえ!」
 仲間が自分を引っ張り上げるようにして共に走り出した。
 すぐに、ローゼンバーグ将軍も追いつく。頬に敵兵の返り血が散っていた。
「すべて倒す必要は無い。無意味な闘いを避けても恥にはならん。」
 走りながら自分にかけてくれたその声は、優しかった。
 確かに、消耗を重ねて戦い続けて相手を警戒させるほど、陛下の救出は難しくなる。
 一刻も早く、陛下の許に辿り着かねばならない。
「来たぞ!!」
 進む足が止まった。
 階を上がるに連れて警備の兵の数が格段に増えた。目的の場所へ確実に近づいているということでもある。
 群がる帝国兵を次々に斬り、突き、階段の下へ蹴落とした。自分も夢中で剣を振るった。
 だが途切れることなく帝国兵が上からも下からも姿を現す。陛下の許に向かうどころか、踊り場に釘付けになって無駄に時間だけが過ぎていく。
「ええいっ!」
 将軍は業を煮やしたように追い縋る兵士を盾で突き飛ばした。ノックバックされた兵士が、後ろに続いていた同志を巻き込んで階段を激しく転げ落ちた。その姿を追いもせず、将軍は上に向かって帝国兵の壁を強引に切り払う。
 やっと全員を倒し、最上層への階段を上がりきったところで、また別の声が下から追ってきた。
 また足を止められるのか。
「いたぞ!捕らえろ!!」
 階段を駆け登って来る帝国兵は3人。自分は思わず叫んだ。
「将軍!ここは俺が何とかします!先へ行ってください!」
 振り返って、将軍の顔を見上げた。どうするかなんて考えてもいなかった。判っているのは、自分達には立ち止まっている時間はないということだ。
 躊躇う将軍に、夢中で叫んだ。
「さあっ!早く!!」
      すまない!!」
 将軍達が背を向けるのを見ながら、自分は無我夢中で迫る黒い甲冑に向かって駆け下りた。



 盾に相手の剣が食い込んだ。一瞬利き手を取られた相手の下腹に剣を突き刺す。倒れる体を盾にしながら二人目に     .

 3ヶ月前にここが落ちた時、ダルマスカはもうダメだと、大人達は口々に言った。
 ナブラディア王国も1ヶ月ともたなかった。
 多くの人が家族を失った。
 アーシェ王女は、婚礼からたった数日で、夫とした人を戦地に送り、そして失った。
 ダルマスカも、他の国のようにアルケイディアに踏み潰されるだけだ。
 疲れた顔の大人達は、そう言っていた。

 でも、ラバナスタには、弟がいる。

「やあっ!      
 

 倒れた帝国兵の手からこぼれた剣が、ガチャリと大きな音をたてた。
 転がり落ちた黒い鎧は、踊り場でグシャリと塊になったまま、動かない。
 倒せた・・・らしい。
 息が上がって膝が折れそうになるのを、剣で支えた。
 陛下の下に行かなければ。


 目の前には、無人の回廊が長く続いていた。要塞でありながら、その優美さは諸国の王宮にも勝ると言われるナルビナ城塞である。装飾で埋め尽くされた壁や天井を見れば、これより美しいと言われる王宮はどんなものか、自分には想像もつかなかった。
 将軍達の姿も見えない。追っ手の足音さえ聞こえなかった。
 気だけが逸って自然と走り出した。
 城塞内の間取りは事前に教えられていたのに、戦いの混乱を繰り返しながら動き回ってくると、見せられた地図のどの階段を上がってきたのか、心もとなくなかった。
 静まり返った自分の足音だけがやけに響く。行き止まりにぶつかって焦って振り返ると、背後に連なる扉の一つが大きく開いているのが見えた。
 将軍達はあちらに向かったに違いない。
 分厚い扉の向こうには、更に幅の広い廊下が続いていた。右手には豪華な装飾がされた窓が連なり、白い月明かりが僅かに陰影を刻んでいる。


        突き当たりの一際大きな扉が、僅かに開いていた。




 扉の隙間から、幾つかの人影が見えた。
 だが、それは動いてはいなかった。
 ゆっくりと扉を押し開けた。

      ッ!!」

 広い部屋だった。
 ラミナス国王の近習達の礼装の姿があった。
 ついさっきまで、共に剣を振るっていた兵士達がいた。


 みんな、死んでいた。


 頭の芯が痺れてしまった気がした。
 転がる死屍と立ち上る血の臭いの中を、足だけが機械的に前に進んでいた。
 微かな月の光が照らす正面椅子に、ラミナス王の姿が見えた。「陛下!」
 王冠を頂く頭が、ぐったりと前に垂れて、その腹は赤黒い血にまみれていた。その真ん中に深々とダルマスカの剣が突き立てられ      .
「・・・ッ?!」

 目の前に、ローゼンバーグ将軍が立っていた。
 氷の様なその目と、目が、合った。
「・・・どうして・・・あなたが・・・」
 声が詰った。
 灼けつくものが、自分の腹をえぐっていた。
「なぜ・・・こんな事をっ・・・」
 目の前の人は、自分を貫く短剣から無造作に手を離した。
 大きく揺れた自分の体を、その刃は更に裂いた。
 目の前の人は言っていた。
「陛下はダルマスカを奴らに売り渡そうとした。」
 将軍が、そう言っていた。
「陛下は売国奴だ。」
「・・・売国・・・奴・・・」

 幾つもの足音が響いた。
「賊を捕らえよ!」「はっ!!」
 遥か遠くでこだましているかのようだった。その声の中に、自分の喘ぐ声が虚ろに混じっていた。
 目の前が暗く揺れる。
 幾つもの軍靴が目の前をぼんやりと動いていく。
 ローゼンバーグ将軍が黒い甲冑の一団に取り囲まれていた。
 声が幻のように耳の中でこだまする。
「和平交渉もこれで終いだな。」
「我々は無条件降伏などせん!陛下はダルマスカを貴様達に売り渡す売国奴だ!」
 抑え付けられた将軍が、叫んでいる。
「戦争は終わったのだよ、将軍!ダルマスカは我が帝国に破れた。だが我々はダルマスカに敬意を払い、それなりの主権を残そうと努力していたのだ。」
 誰か癇の強い声が嘲笑っている。
「それも総て将軍、君のせいで台無しだ。」
「俺は帝国に屈しない!」
「ダルマスカの民は、さぞかし君を恨むだろう。       将軍を連れて行け!」


 もう、足音すら聞こえなかった。
 何もかもが闇の中に沈んだ時、

 そこに、弟の姿が浮かんで、消えた。

「・・・.ヴァン・・・」







       手記は続く。


和平の道は立たれ、進攻を開始した帝国軍は王都ラバナスタに迫った。
ダルマスカの命運は決したのである。
もはや抵抗は無意味であった。
さる筋から得た情報に基づき、私はダルマスカ国民へ呼びかけた。


”徹底抗戦を唱え、ラミナス陛下を暗殺したバッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍は、大逆犯として処刑された。
 いまだ戦いを望む者は将軍と同類である。ダルマスカを滅亡へと導く、恥ずべき反逆者である。
 真の愛国者よ。剣を捨て祈りを捧げよ。平和を望んだ慈悲深きラミナス陛下の魂に。
 そしてまた       ”

”祖国の敗北を嘆いて自ら命を絶った、アーシェ殿下の誇り高き魂に。”


王家を失ったダルマスカは、ほどなく無条件克服を受け入れた。

                     .ハルム・オンドール4世「回顧録」「13章 友邦の義務」
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