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Chap.5-8 Secret of the Magicstone-魔石の秘密- [Chapter5 空中都市]

 執政官ヴェイン・ソリドールがラバナスタに帰還して、その痩躯を執政官室の椅子に埋めるや、待ちかねたように帝国将校の一人が報告に参上した。
「閣下の御推察どおりでありました。」
 将校は感服したという表情を顔中に表しながら言った。「盗賊共を発見した現場付近を改めて入念に捜索したところ、最上階に隠し宝物庫が見つかり、中は荒らされた跡がありました。閣下の御慧眼、誠に感服いたしました。」
「盗まれたものは?」
「特に無いようです。著名な宝物は手つかずになっておりました。」
「何も取られていないということか?」
「はい。こちらが確認した宝物のリストです。・・・これまで未確認だった王家の財宝がほぼ総て確認できました。」
 兵士は胸を張ってリストを執政官に差し出した。ヴェインはそのリストに素早く目を走らせた。
 イヴァリース中に知れ渡るダルマスカ王家の宝物の数々。覇王レイスウォールの昔から伝わる数々の品は、2年前の占領以来、乗り込んだ執政官や将校達が血眼になって探してきた。一部の品はどうしても発見することが出来ず、反乱軍が持ち出したかと思われていたが、結局、すぐ足下に眠っていたというわけだ。
 執政官は顔をあげると、満足したように微笑んで右手を挙げた。兵士は誇らしげに敬礼をして、その場を辞した。

 兵士が姿を消すと、ヴェインはそのリストをぞんざいにデスクの上に放り出した。そして深々と椅子に体を埋めると、ゆっくりと息を吐いた。
 国元の好事家共が頬をだらしなく緩めるであろうその品々も、ヴェインの黒い瞳にはインクの染み以上のものには映らなかった。幾らイヴァリースの悠久の歴史を語る品々が並んだところで、ただ一つ、そこに無いものに比べれば、所詮、砂漠に降る淡雪の如く儚く虚しいものでしかない     
 窓の外に遠く幻のようにそびえる砂の山並みに目をやりながら、ヴェインの白い手袋をした指が機械的に長い黒髪をかき上げた。
「・・・もう、6年になるか。」
 何かを思い出すような遠い目に、やがて愉快とも見える光が浮かんだ。
「・・・まさか、属領の泥水の中で、あの顔を見るとはな。」
 独り言ちた唇に皮肉とも見える微笑が浮かんだ時、ごく控えめなノックの音がした。
 返事を待たずに一人のジャッジが影が滑るように音もなく入ってくる。公安13局、ジャッジマスター・ギース配下の一人だ。
 ヴェインはデスクの上のリストを改めて手に取ると、その黒い甲冑に向かって振って見せながら言った。
「やはり持ち出されたようだな。」
「おそらく。」
 ジャッジは兜の下で低く頷いた。
「我々がもう少し早く気付いていれば・・・」
「気に病むことはない。私が帝都に縛られているうちに見つかるよりは上出来だ。」
 恐縮するジャッジにヴェインは鷹揚な笑みを返したが、ジャッジは尚も緊張した様子で僅かに首をかしげた。
「しかし本当に彼が所持しているのでしょうか。」
「さあ・・・な。」「は?」
 曖昧なヴェインの言葉に明らかに困惑した声をあげたジャッジに、ヴェインは苦笑いして向き直った。
「いや、私にもそこまでは分からんよ。     だがトカゲの餌にはうまく食いついたのだろう?」
「はい。将軍も間違いなく同道していると。」
「ならば事はすぐに動き出す。貴局のジャッジマスターに伝えよ。・・・『客人は重々気を配ってもてなすように』、とな。」
「承りました。」
 神妙に頷いたジャッジが、「閣下、もうひとつ    
 と、言葉を続けた。
「ドクターから伝言がありました。予定どおり明日の午後、ビュエルバに向けて出発するとのことです。」
「そうか    
 それを聞いたヴェイン・ソリドールは、急にクックと声に出して笑った。
「まるで誰もが吸い寄せられてでもいるようだな!」
 ヴェインは笑いながらグイッと椅子を回すと、ジャッジとは反対側の誰かに話すかのように声をあげた。
「確かだ。確かにあれはビュエルバにある。間違いあるまい?」
 執政官は誰もいない空間に向かって話しかけながら、なおも笑っていた。
 その姿を、ジャッジは異様なものを見るようにして硬くなっていた。己の表情が兜の下であることを、彼は初めて幸いだと思った。






「これを見たかったんですよ。」
 ラモンは剥き出しの地面に跪くと、鉱石の光る土にそっと手をやって感嘆の声を上げた。
 ヴァンも鉱石が青と碧の星のように輝く坑道の壁を眺め回しながら思わず溜息を漏らした。

 階段を降りて土と岩が剥き出しの狭いトンネルを行くとほどなく、そこは広く開けた採掘作業場になっていた。壁際にひっくり返されたトロッコや乱雑に置かれた採掘用具が、今ここで鉱石が掘り出されていることを物語っている。その作業場を取り巻く壁も天井も、鉱脈に含まれる魔石がまるで満点の星空のように美しく輝いていた。
 足下に目を落とせば、地面一面にも魔石が転々と青白く輝いて、跪くラモンはまるで星空の中に浮いているかのようだ。いったいどれだけの魔石を含んでいるのだろう。この採掘作業場全体が巨大な魔石の鉱脈なのだ。

 ラモンはその場に跪いたまま、懐からコッカトリスの卵ほどの青く輝く石を取り出した。
 規則正しい多面体のその石は均整の取れた卵型をしている。少年の白い手袋の手の中で、クリスタルのように深く青く輝く石に、に二人の空賊とヴァンは吸い寄せられるように歩み寄った。
「何だ?」
 ヴァンが尋ねると、ラモンは屈託の無い声で答えた。
「破魔石です。人造ですけどね。」
「はませき?」
 バルフレアの目が青い石からラモンへと素早く移った。それを横目で見たフランが、壁の鉱脈へとゆっくり顔を向けた。
 ラモンは彼らしいハキハキとした声でヴァンに答える。
「普通の魔石とは逆に、魔力を吸収するんです。人工的に合成する計画が進んでいて、これは試作品。ドラクロワ研究所の技術によるものです。」
 その瞬間、バルフレアの目が刺すように鋭くなったことを、背を向けたラモンもヴァンも気付かなかった。
 ラモンは立ち上がると、石を片手に正面の岩壁に駆け寄って鉱石の輝きを見上げた。
「やはり原料はここの魔石か     
 手の中の青い石と鉱脈の中で淡く輝く青と碧の光を見比べながら、ラモンは他の4人は心にも無い様子で一心に鉱脈を見上げていた。その小さな背中に、バルフレアの低い声が飛んだ。
「用事は済んだらしいな。」
 ラモン振り返らずに答えた。
「ありがとうございます。お礼は後ほど。」「いや、今にしてくれ。」
 バルフレアは言った。
    お前の国にまでついていくつもりはないんでね。」
 ラモンはくるりと振り返った。
 バルフレアがゆっくりとこちらへ歩いてくる。それまでの飄々とした表情は嘘のように消え去り、白刃のように鋭い視線が刺すようにこちらへ注がれている。
「破魔石なんて古臭い伝説、誰から聞いた?」
 重く抉るようなその声に、ラモンは息を飲んだ。
「なぜドラクロワの試作品を持ってる?あの秘密機関とどうやって接触した?」
 バルフレアの問いは答える隙さえ与えない。壁際に射すくめられたようなラモンに、その男が触れんばかりに近づいて、
「っ!」
 思わず脇へ逃れようとする少年をバルフレアの腕がぴしゃりと遮った。捕らわれた小鳥のようにビクッと震えたラモンに、バルフレアは冷たいナイフでも突きつけるかのように言った。
「お前、何者だ?    

「おい、バルフレア!」
 ただならぬ様子にヴァンは思わず声を上げた。
 いくらラモンが珍しい魔石を持ってるからって、バルフレアの様子は普通ではない。子供相手にむきになるなんて、一体どうしたっていうんだ    
 ヴァンが二人に割って入ろうと足を踏み出した時、ナルビナで聞いたあの声が響いた。

    待ってたぜ、バルフレア!」



 バルフレアはいつもの調子で面倒臭そうに振り返った。
 その彼に向かって、4人のバンガが横一列になって息巻きながらズカズカと入ってきた。
 銃や槍を手にした手下共を従えて、一際大柄なバッガモナンが鼻息も荒く大音声を上げた。
「ナルビナではうまく逃げられたからな。会いたかったぜ。」
 荒くれバンガのガラガラ声が魔石の切り端に反響して割れ鐘のように響く。その雷のような声に耳をつんざくようなモーターの轟音が重なった。ニヤリと笑うバッガモナンが振りかざした長い柄の先で、「かいてんのこぎり」の円い刃が、細切れにせんとばかりに恐ろしい勢いで回っている。
「さっきのジャッジといい、そのガキといい、金になりそうな話じゃねえか。俺も一枚かませてくれよ。」
 バッガモナンは大きな口でニヤリと笑うと太い腕を突き出した。
「頭使って金儲けってツラか?」
 バルフレアは銃を構えもせずに賞金稼ぎを鼻で笑った。
「お前は腐った肉でも噛んでろよ。」
「ッ!!・・・」
 バッガモナンの頬がみるみる膨れる。ピアスのジャラつく口の端で黄色い歯がギリギリと鳴る。緑の鱗が赤く染まらんばかりの勢いで、
「バールフレアァッ!」
 バッガモナンはかいてんのこぎりを振りかざして吠えたてた。
「てめえの賞金の半分はそのガキで穴埋めしてやらあ!」
「この野郎!」
 突進してくるバンガの前にヴァンがつんのめるように飛び出した。
 怒りで爆発するんだったらヴァンだって負けてはいないのだ。
「パンネロはどこだ!?」
 気負いすぎたヴァンの怒声が裏返ってかすれた。
 バッガモナンは突然割って入った少年に向かって、鼻であしらうように怒鳴った。
「アァ?餌はもう必要ないからな。途中で放してやったら泣きながら飛んで逃げてったぜ!」
 そう言い捨てると、目の前の少年もろともバルフレアを細切れにせんとばかりに飛びかかった。
 その時、
 ヴァンの後ろからラモンが人造破魔石を投げつけた。青い石はかいてんのこぎりの輪をくぐってバッガモナンの右目にまともに当たった。
「ギャッ!!」
 思わず悲鳴をあげたバッガモナンの脇をラモンが素早くすり抜ける。転がった人造破魔石を素早く拾うと、ラモンはそのまま外に向かう坑道へと脇目もふらずに駆けだした。
「おいっ?!」
 ヴァンも思わずラモンの後を追う。
「こらっ、てめぇら・・・」
 と振り向くバッガモナンを、バルフレアが邪魔だとばかりに突き飛ばす。手下もろとも団子になって転がったバッガモナンをフランが軽やかに飛び越えると、バッシュも続いて走り出した。
 その背中に向かって、いよいよ怒髪天を突く勢いでバッガモナンの怒声が響いた。

「逃がすかぁっ!」
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